25 / 127
王子妃になるようです
お前、火炙りにするぞ
しおりを挟む「未悠っ。
なんということをしてくれたんだ。
軽く火炙りにするぞっ」
明らかに叱られるために呼ばれたシリオの部屋。
軽くもひどくも炙られたら終わりですよねーと思いながら、未悠は視線をそらす。
叱られていると、この石造りの宮殿が余計冷え冷えして感じられるな、と思いながら。
「王子の立場を悪くするなよっ。
お前それでも、王子の嫁かっ?」
まだ結婚してません、とか口に出したら怒られそうなので、心の中だけで思っていた。
「これで、ますますアドルフ様が王位から遠ざかったらどうしてくれるーっ」
とわめくシリオに、未悠は問うた。
「あのー、シリオ様はどうしてそんなに王位を継ぎたくないのですか?」
私か? と振り返ったシリオは、
「私はめんどくさいのが嫌いなのだ。
行動を制限されるのも嫌だ。
考えただけで、鳥肌が立つ」
と言ってくる。
「……そんな理由ですか」
「私は風のように気ままに生きたいのだ」
気ままそうですよね~。
そのお立場で、怪しげな格好で、街をフラフラしていたり、危険なアバンチュールをしてしまうほどに、と思いながら、未悠は、最初はどんなペテン師だと思ったシリオを眺める。
そんな未悠の前で、シリオはまだ叫んでいた。
「そもそも、なんで私に話が回ってくるんだっ。
王子には他に兄弟が居ないし。
従兄弟たちはみな、他所の国や有力者の姫と結婚して、そっちの跡継ぎになり。
全然関係ないだろうと好き勝手やっていた私のところに、いきなり話が回ってきたのだ。
冗談じゃないっ。
もうひとり居るだろ、死にかけのジジイがっ」
どうやら、あと王位継承権で上の方なのは、何処かのおじいさんだけらしい。
シリオは窓から高い生け垣の向こうの森を見ながら言ってくる。
「本当のところ、私は塔の悪魔なぞ信じてはおらん。
確かにアドルフ王子は王とは似ていないが。
ほら、子どもって、突然、親族の誰かの顔が出たり、先祖帰りみたいに違う顔が出たりすることあるじゃないか」
とシリオは言う。
「まあ、ありますけどね。
叔父さんに似てるとか、弟の方に似てるとか」
でも、それはそれで疑惑を呼んだりしますよねーと冗談のつもりで軽く笑って言ったのだが、シリオは顔を近づけ、
「……新たな争いの種をまくなよ、おい」
と言ってきた。
めんどくさいな、王宮。
ちょっとした噂も命取りのようだ。
「でもそうか。
塔の悪魔って、結局、誰も見たことないんですよね」
「随分昔に塔に閉じ込められたらしいからな。
まあ、見たことあるとすれば、……お妃様くらいじゃないのか?」
噂がほんとならだがな、とシリオは言う。
腕を組んだシリオは窓の横、石の壁に背を預け、目を閉じる。
当時のことを思い出すように。
「お妃様はなにも覚えていないと言うんだよ。
発見されたときは、塔の前で倒れていて、それ以前のことは、まるで覚えていないと言うんだ」
アドルフは塔の近くであのノートを拾ったと言っていた。
真実を確かめたくて、あそこまで行き、塔を見上げていたのだろうか。
そういえば、初めて会ったときも、その呪いの塔の近くの森に居たし。
「……誰も見たことがない、か。
では、塔の悪魔が実は、すっごい不細工だったりしたら、アドルフ王子の父ではない、ということになりますよね?」
は? とシリオが言ってきた。
「だって、誰も悪魔の顔を見たことはないんでしょ?
じゃあ、王子が王の子ではなく、悪魔の子かもしれないと言われるのは、あの、女よりも綺麗で、ぶちたくなるような顔のせいですよね」
と言って、いきなり私怨を混ぜるな、と言われる。
「卑下するな。
お前もそう悪くはない」
「……すみません。
卑下しているつもりはなかったんですが」
その一言、逆効果です、シリオ様、と思いながらも、未悠は話を続けた。
2
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください
ねむたん
恋愛
領地経営に奔走する伯爵令嬢エリナ。毎日忙しく過ごす彼女の元に、突然ふらりと現れたのは、自由気ままな第三王子アレクシス。どうやら領地に興味を持ったらしいけれど、それを口実に毎日のように居座る彼に、エリナは振り回されっぱなし!
領地を守りたい令嬢と、なんとなく興味本位で動く王子。全く噛み合わない二人のやりとりは、笑いあり、すれ違いあり、ちょっぴりときめきも──?
くすっと気軽に読める貴族ラブコメディ!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる