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王子妃になるようです

お前、火炙りにするぞ

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「未悠っ。
 なんということをしてくれたんだ。

 軽く火炙りにするぞっ」

 明らかに叱られるために呼ばれたシリオの部屋。

 軽くもひどくも炙られたら終わりですよねーと思いながら、未悠は視線をそらす。

 叱られていると、この石造りの宮殿が余計冷え冷えして感じられるな、と思いながら。

「王子の立場を悪くするなよっ。
 お前それでも、王子の嫁かっ?」

 まだ結婚してません、とか口に出したら怒られそうなので、心の中だけで思っていた。

「これで、ますますアドルフ様が王位から遠ざかったらどうしてくれるーっ」
とわめくシリオに、未悠は問うた。

「あのー、シリオ様はどうしてそんなに王位を継ぎたくないのですか?」

 私か? と振り返ったシリオは、
「私はめんどくさいのが嫌いなのだ。
 行動を制限されるのも嫌だ。
 考えただけで、鳥肌が立つ」
と言ってくる。

「……そんな理由ですか」

「私は風のように気ままに生きたいのだ」

 気ままそうですよね~。

 そのお立場で、怪しげな格好で、街をフラフラしていたり、危険なアバンチュールをしてしまうほどに、と思いながら、未悠は、最初はどんなペテン師だと思ったシリオを眺める。

 そんな未悠の前で、シリオはまだ叫んでいた。

「そもそも、なんで私に話が回ってくるんだっ。

 王子には他に兄弟が居ないし。

 従兄弟たちはみな、他所の国や有力者の姫と結婚して、そっちの跡継ぎになり。

 全然関係ないだろうと好き勝手やっていた私のところに、いきなり話が回ってきたのだ。

 冗談じゃないっ。

 もうひとり居るだろ、死にかけのジジイがっ」

 どうやら、あと王位継承権で上の方なのは、何処かのおじいさんだけらしい。

 シリオは窓から高い生け垣の向こうの森を見ながら言ってくる。

「本当のところ、私は塔の悪魔なぞ信じてはおらん。

 確かにアドルフ王子は王とは似ていないが。

 ほら、子どもって、突然、親族の誰かの顔が出たり、先祖帰りみたいに違う顔が出たりすることあるじゃないか」
とシリオは言う。

「まあ、ありますけどね。
 叔父さんに似てるとか、弟の方に似てるとか」

 でも、それはそれで疑惑を呼んだりしますよねーと冗談のつもりで軽く笑って言ったのだが、シリオは顔を近づけ、
「……新たな争いの種をまくなよ、おい」
と言ってきた。

 めんどくさいな、王宮。

 ちょっとした噂も命取りのようだ。

「でもそうか。
 塔の悪魔って、結局、誰も見たことないんですよね」

「随分昔に塔に閉じ込められたらしいからな。

 まあ、見たことあるとすれば、……お妃様くらいじゃないのか?」

 噂がほんとならだがな、とシリオは言う。

 腕を組んだシリオは窓の横、石の壁に背を預け、目を閉じる。

 当時のことを思い出すように。

「お妃様はなにも覚えていないと言うんだよ。

 発見されたときは、塔の前で倒れていて、それ以前のことは、まるで覚えていないと言うんだ」

 アドルフは塔の近くであのノートを拾ったと言っていた。

 真実を確かめたくて、あそこまで行き、塔を見上げていたのだろうか。

 そういえば、初めて会ったときも、その呪いの塔の近くの森に居たし。

「……誰も見たことがない、か。
 では、塔の悪魔が実は、すっごい不細工だったりしたら、アドルフ王子の父ではない、ということになりますよね?」

 は? とシリオが言ってきた。

「だって、誰も悪魔の顔を見たことはないんでしょ?

 じゃあ、王子が王の子ではなく、悪魔の子かもしれないと言われるのは、あの、女よりも綺麗で、ぶちたくなるような顔のせいですよね」
と言って、いきなり私怨を混ぜるな、と言われる。

「卑下するな。
 お前もそう悪くはない」

「……すみません。
 卑下しているつもりはなかったんですが」

 その一言、逆効果です、シリオ様、と思いながらも、未悠は話を続けた。



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