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理由が必要か?

電話の相手は……

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 杵崎は深月に導かれ、隅の方の席に行った。

 広い店内を貸し切っているので、あちこち別れて盛り上がっているのだが。

 その一角は比較的静かだった。

「喜一さんのお知り合いらしいです」

 深月はその女性を大きな神社の巫女さんだ、と紹介してくれた。

 彼女は色白丸顔で、当たり前だが、巫女装束ではなく。

 いまどきの普通の服を着ていた。

 ただ長いストレートの黒髪だけが、ああ、巫女さんなのかなあ、という感じだ。

 それと、やっぱり、ちょっと他の子よりは落ち着いた印象だった。

「ではでは、これで」
と深月は杵崎をその席に置いて、酔っているとは思えない足取りで、スタスタ行ってしまう。

 少しその子と話した。

 おかしいな、と杵崎は思う。

 大きな神社に勤めている本物の巫女さんなんだが。

 ちゃんとお茶やお花もたしなんで。

 顔も可愛いし……。

 なのに、なんでだろう、ときめかない。

 そんなことを考えながら、杵崎はぬるくなった酒をいつまでも呑んでいた。

 酒があまり進まなかったからだ。

 深月は幹事らしく、どうですかー? といろんなテーブルに行って、話しては笑っている。

 っていうか、酒、注がれるままに呑みすぎだろ。

 あの晩みたいにお持ち帰りされるぞ。

 陽太のことだ。
 どうせ酔いつぶれただけで、本当はなにもしてないんだろうと思っていた。

 だが、深月を見ているうちに不安になって、やっぱり、なにかあったのかもと疑ったり。

 いやいや、なかったに違いない、と思い込もうとしたり。

 どうでもいいではないかと思うのに、気になってしょうがない。

 また深月のスマホが鳴ったようだ。

 椅子がないので、しゃがんでテーブルに手を置いてしゃべっていた深月がスマホを手に立ち上がる。

 暗い中で、明るく光るその画面を見ながら、杵崎もまた立ち上がった。

 深月のところまで行き、そのスマホを奪い取る。

「貸せっ、俺がかわってやるっ」

「えっ、でもっ」
と深月は戸惑っていたが、由紀たちは、やんやと騒ぎ立てていた。

「言ってやってー、杵崎ー」

「ラブラブなとこ見せつけすぎ、支社長うざいですー」

 お前ら、そのままスピーカーにして陽太に流してやろうか、と思いながら、

「もしもしっ」
と杵崎が高圧的に出ると、

『おや? 間違えたかな?』
と年配の男の声がした。

『深月の携帯にかけたと思ったんだが』

「……誰だ、こいつは?」
と深月にスマホを見せると、深月は受け取り、画面を見た。

「あっ、お父さんですっ」
と言う。

「もしもし、お父さん?
 清ちゃんは同窓会。

 いやいや、私は別。

 うん。
 ……えっと、会社の呑み会」

 横から、コンパコンパ、と勝手な合いの手を入れるものがいて、ひー、と深月はスマホを手に外に出て行った。




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