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理由が必要か?

そういう奴ほど、コンパでモテるのよっ

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 秘書室には杵崎がいた。

 ノートパソコンの画面を見たまま、
「長いぞ。
 ちょっと報告してくるだけなのに」
と文句をつけてくる。

「はあ、コンパのお知らせもしたので」
と言いながら、深月は自分のデスクに腰掛けた。

 ふう、と小さな観葉植物の側に置いていた冷えた珈琲を一口飲む。

「……支社長も来るのか?」
と画面を見たまま、杵崎が訊いてきた。

「支社長は母方のおばさんの誕生祝いにかけつけないと、とか言ってましたよ」
と言うと、何故か杵崎はホッとしたようだった。

「ああ、さゆみさんかな。
 何度か見たことがある」

 杵崎は陽太の父方の親戚なので、然程、面識はないようだった。

「美人で強烈なおばさんだった」
と言うので、やはり、一族で美形なのか、と思いながら、ふと訊いてみた。

「そういえば、コンパ、私は職場から、みんなとタクシーで行こうかと思ってるんですが。
 杵崎さんは、あの自転車で行くんですか?」

「行くわけないだろうが……」

 まあ、そうか。
 大人気にはなるだろうが、違った意味でだ。

 初対面であの自転車で現れたら、女の子、ちょっと引くかもなーと思っていると、杵崎はパソコンのキーを叩きながら言ってくる。

「だって、自転車も飲酒運転になるじゃないか」

 いや、飲酒運転じゃなかったら行くのか……?

 深月の頭の中で、杵崎が他の男性社員と二人乗りで現れ、やあ、と女の子たちに手を挙げる――。

 コンパに行くタクシーの中でも、その妄想を思い出し、ぷっ、と笑うと、由紀が言ってきた。

「また突然、笑ってる」

「深月、いつもいきなり笑い出すから、びっくりしますよね~」
と純も呆れたように言ったが。

 助手席に座る沙希は、
「そんなことはいいのよっ。
 それより、深月っ。
 あんた、今日は目立たないようにしてなさいよっ」
と釘を刺してきた。

 後部座席の真ん中に座る深月に左右から純と由紀が言ってくる。

「そうよ。
 あんたにはもう支社長がいるんだからっ」

「隅でじっとしてるか。
 みんなの注文でもとってなさいよっ」

 ……シンデレラか、
と思いながら、深月はひとつ溜息をついて言った。

「心配しなくても、私なんて、もともと目立ちませんから」

 すると、沙希が、
「いや、そうなんだけどっ」
とそこは素直に認めて言ってくる。

 おい……。

「でも、私が今まで出たコンパからの統計によると。

 仕方なく人数合わせで参加した彼氏がいる奴とか、結婚が決まってる奴とかが、不思議にモテるのよっ」

「わかる」
と沙希の言葉に由紀が頷いた。

「男もそうよ。
 もう決まった相手がいるのに来た奴の方がなんかいいのよ。

 落ち着いてるっていうか。

 コンパに来ても、誰か引っかけようなんて思ってないから、ゆとりがあって、目立つのよ。

 ガツガツしてないから、話しかけやすいし」

 そこで、
「そうか!」
と純が手を打った。

「『私にはもう決まった相手がいる』と思い込んで、コンパに参加したらいいんじゃないですか?」

「あっ、じゃあ、私、杵崎さんと付き合ってることにしようっと」
と沙希が笑うと、純が、

「あ、ずるいですっ。
 私が杵崎さんにしようと思ったのにっ」
と言い出す。

 何故、揉めるんですか。

 妄想の話ですよね?

 そして、杵崎さん本人もその場にいるはずなんですが、本人は狙わないんですか。

 杵崎と付き合っているという妄想が、杵崎攻略に役に立つとは思えないのだが……。

 だが、そこで、すでに一度、杵崎とは付き合って別れている由紀が頭を抱えはじめる。

「どうしようっ。
 私、妄想する相手すらいないんだけどっ」

「大丈夫ですよっ、金子さんっ」

「そうよっ。
 いないからこそ、今日、見つけるんじゃないっ」
と純と沙希が慰めている間に店に着いた。




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