66 / 95
理由が必要か?
陽太は何者なんだ?
しおりを挟む休憩が終わり、稽古に戻ろうとした深月たちだったが、隅の方で万蔵たちが渋い顔で話しているのに気がついた。
万蔵の足はまだ治ってはいないのだが、今日は条子に連れてきてもらっていたのだ。
「どうしたんですか?」
と深月は訊いてみた。
すると、則雄が、
「いや、そろそろ、宵宮のこととか決めとこうと思ったんだが。
儀式をどの程度やるかで揉めてて」
と言う。
「宵宮って、祭りの前日ですよね?」
と陽太が則雄たちに訊いている。
そうそう、と則雄が答えた。
深月が言う。
「宵宮では、祭りのために神様をお呼びする儀式をやるんです。
神楽もそのうちのひとつですけど。
まあ、儀式自体は、ひっそりやっているし。
神職だけでやって、見られない部分も多いので。
祭りを見に来る人からすれば地味ですかね?
それでなのか、いろいろ面倒臭いことが多いからなのかわからないですけど。
古い資料とか見てみたら、大祭の儀式でさえ、昔に比べて、かなり簡素化されちゃってるみたいなんですよね」
「でも、神様を降ろす儀式なら、一番重要なとこじゃないか。
なんで正しくやらないんだ?」
と陽太は言ってくる。
則雄が、うーん、と考え、言った。
「金も暇も手間もかかるからかな?」
「でも、十二年に一度の大祭なら、ちゃんとやった方がいいんじゃないですか?
俺も協力しますよ。
金なら出しますし」
と陽太が言うと、ええっ? とおじさんたちが陽太を見る。
「船長って、そんな儲かるの?」
「陽太、豪華客船の船長だったのか?」
いや、豪華客船の船長なら、こんな長い間、地上に居ないと思いますが……。
っていうか、豪華客船の船長って儲かるのか?
と思う深月の横から、
「そいつは、深月が働いてる会社の支社長だ」
と清春がバラす。
「……権力を振りかざして、深月を自分の側に置こうとする支社長だが」
と恨み節での語りもつけながら。
「陽太、支社長だったのかっ」
「支社長もあだ名だと思ってたっ」
と最初から知っていた漁業組合の人たち以外が言い出す。
「じゃ、艦長はなんだったんだっ」
……いや、艦長もありましたっけ? と思う深月の側で、おじさんたちが呑気なことを話し合い始める。
「でも、支社長って、儲かるのか?」
「あれだけでっかい会社なら儲かるんじゃないのか?」
そんなおじさんたちに陽太が言う。
「いや、俺の金でもいいんですが。
会社として協力した方が企業のイメージアップにもなるので、そうしようかと」
「ほんとうかっ?
ありがとな、陽太っ」
と陽太の肩を叩いたおじさんの一人が笑顔で言った。
「それって、陽太の会社が祭りにあれしてくれるってことだろ、ほらっ。
えーと……
売名行為!」
「協賛だろ……」
と則雄に言われていたが。
「今も企業として寄付はしていると思いますが。
もうちょっと人も出したりして、協力してもいいかなと思っています。
地域の活性化にもつながりますし。
神楽は人気ありますし。
テレビでも放送されるんじゃないですか?」
と訊く陽太に、則雄が答える。
「ケーブルテレビでちょっとと、他にニュースがなければ、県内の地上波でやってくれてるかな。
大きな神社の大祭なら取り上げてくれるんだろうけど」
そんな則雄の言葉に、
「小さくて悪かったのう……」
と万蔵が愚痴る。
「だが、まあ助かる」
と清春が言った。
「どんどん街に人が流入してきてはいるが。
ほとんどがアパートやマンションの人で、地域とは関わりを持たない人が多いし。
大家さんも店子が面倒臭がるから、自治会には勧誘しないでくれとか言ってくるし」
そう清春に言われ、清春の横に居たおじいさんが苦笑いしている。
そういえば、最近、畑をつぶしてアパートを三棟建てたおじいさんだな、と深月は思った。
「まあ、そういう事情もわかるけど。
神社の収入も先細りだし。
祭りの規模も年々小さくなっていっている。
そうして、企業がつくことで、宣伝してくれて、少しでも多くの人が興味を持ってくれて、祭りや地域の活性化につながるのならいいことだと思う。
陽太、お前に感謝する。だが、深月のことは話が別だ」
……今、感謝の言葉から続けての発言だったので、みな思わず頷き、聞いてしまったではないか。
話の切れ目は何処だ。
則雄がボソリと言っていた。
「……神楽より、この三角関係を中継した方が視聴率とれるんじゃないか?」
と。
そして、則雄は振り向き、
「おい、ケーブル!
今年は深夜でもいいから、神楽全部放送しろよ。
大祭なんだしっ」
と離れた場所で稽古していたケーブルテレビの社員に言って、
「ええーっ。
俺も参加してるから、かえって頼みづらいんですけどーっ」
と言われていた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる