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支社長室に神が舞い降りました
ここは恐ろしい街ですよ……
しおりを挟む結局、陽太と二人、街のフードコートに行った。
こういうところなら、人波に紛れ、誰の目にもとまらない気がするからだ。
ずっと『Coming Soon』になっていたフードコートの一角にクレープ屋さんが入っている。
「私、昔クレープってあんまり好きじゃなかったんですけど。
たまたま、移動販売のクレープ屋さんのを食べたら、すごく美味しかったんですよね~」
と言って見つめていると、
「じゃあ、並ぶか?」
と陽太は言う。
新しい店のせいか、長蛇の列だった。
「そうだ。
お前、座っとけよ。
俺が並んでやるから」
一日巫女さんして疲れたろう、と言う。
だが、座って席をとらねばならないほど混んでいるわけでもない。
「いやいや、一緒に並びますよ」
「いいから座っとけよ」
と言いながら揉めていると、前に居たキャップをかぶった子連れの男が振り返り、
「いいよな、付き合いたてのカップルは。
そうして、いちゃいちゃしてる間に順番来るから」
と言ってくる。
「うっ、重富さん……」
と深月は後退する。
神楽団の仲間の重富だ。
「今日は珍しく日曜休みなんで、家族で出かけたんだ」
と言いながら、まだ、あぶあぶ言っている赤ちゃんを母親から受け取り、抱っこしていた。
重富は消防士で、奥さんは普通の会社勤めなので、日曜の昼間そろって出かけることは少ないと言う。
陽太は、
「恐ろしいな、この街。
何処にでも間者が居るぞ……」
と呟いていた。
街の出身ではない、おとなしい感じの奥さんとはあまり面識がないので、二人でペコペコと挨拶し合う。
重富の腕から身を乗り出した赤子に、ちっちゃな手で頭をペシペシやられながら深月は言った。
「じゃあ、この子は、うちの神楽団、期待の星ですね」
「こいつがやるって言ったらだぞ」
と赤子の手を止めながら重富は言う。
「ちなみに男なんで、お前の役は引き受けられない。
引退したきゃ、自分で女の子でも産め」
と言って、陽太を見たあとで、
「だがまあ、祭りの前には禊でもしろよ。
お前の役は穢れない子どものやる役なんだからな」
となにもかもお見通しのように言う。
やはり、恐ろしい街だ……と深月も思った。
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