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支社長室に神が舞い降りました

そんなおまけはついてないっ

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「よし、おみくじも引いたし、帰れ」
と清春に言われた陽太は、

「俺の今日の野望は、この神社に来て深月を見たあとで、深月と一緒に、その辺の雰囲気のいい喫茶店に行ってお茶をする、なんだが」
と呟いていた。

 そのとき、
「行って来なさい」
と母屋の縁側から万蔵まんぞうの声がした。

 経過が良好だったので、結局、週末前に退院してきたのだ。

「おじいちゃんっ」
と清春が祖父を咎める。

「まあちょっと行ってきなさい。
 せっかく来てくれたんだから」
と言う万蔵に、清春は、

「うちのお祓いに深月とのデートはついてないっ」
と言う。

 陽太がぼそりと呟いていた。

「……巫女さんとのデート、ついてたら来るやつ、結構いそうだな」

「わしが怪我したせいで、支社長さんには、祭りを手伝ってもらってるじゃないか」
と万蔵が言うと、うっ、と清春はつまる。

「せっかく来てくださったんだし。
 深月、お茶くらい付き合ってあげなさい」
と言われ、はい、と深月は言った。

 祖父に、わしのせいで、と言われてしまうと、人のいい清春は断れない。

 結局、行かせてくれた。
 


「あのおみくじ当たってなかったぞ」
と歩く道々、陽太は機嫌よく言ってくる。

 やはりおみくじ悪かったんだな……と思っていると、陽太は歩きながら手を握ってこようとする。

 慌てて払った。

「なんだ。
 デートだぞ」

「近所にお茶飲みに行くだけですよ」

「それを人はデートと言うんだ。
 っていうか、お前、俺とあんなことまでしておいて、手はつながないって意味がわからないんだが」

 だーかーらー、それ、記憶にないですしーっ、と思いながら、深月は言った。

「きっと酔って寝ちゃっただけで、なんにもしてないんですよ。

 よく考えたら、私が好きでもない人と、そんなことするわけないですもん」
と言うと、

「だから……好きなんだろ?」
と陽太は言ってくる。

 いつの間にか、手を握られていた。

 いやいやいや。

 だから、そんなまっすぐに見つめて来ないでくださいっと思っているうちに、陽太が言うところの近所の雰囲気のいい喫茶店に着いていた。




 レトロな雰囲気の漂う、感じのいい喫茶店に、陽太は満足したようだった。

「こういうのが住宅街にあるっていいな」
と窓辺の席に座り言う。

「旅行の計画でも立てるか」

 機嫌よくそんなことを言い出すので、深月は慌てて身を屈めて小声で忠告した。

「しっ、この喫茶店は危険です。
 スパイがいます」

「……何処にだ」
と陽太が周囲を見回したとき、客たちが一斉によそを向いた。

「全員か」
と陽太は呟く。

 そう。
 実は、周囲は見知った顔で固められていたのだ。

 張り込み中の刑事たちに包囲されているかのように。

 まだ素知らぬ顔をしている客たちの顔を眺め、陽太が呟く。

「何故、気づかなかったんだろうな」

「我々が入ってきたとき、みんな、身を屈めたり、新聞を広げたり、観葉植物の陰に入ったりしたからですよ」

「おそろしい喫茶店だ……」
と陽太は呟くが。

 深月は、いや、ここに入ろうと言った時点で、想像ついてましたけどね、と思っていた。

 ここは神楽のみんなが寄合所のように集まる場所だからだ。

「珈琲飲んだら出るか。
 よそに行こう」
と言った陽太は、ふと、カウンターの向こうを見たようだった。

「鬼が豆いてる……」
と陽太は呟く。

 神楽の鬼のひとりが、ガーッと豆を挽きながら、こちらを見ていた。




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