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支社長室に神が舞い降りました

支社長が襲われていますっ

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 ハ、ハイエナが狙うように、万理さんたちが支社長を待ち構えています。

 脱いだ千早を手にした深月は、待ち針を手にしたヨーダのようなおばあちゃんのところに行った陽太を見ていた。

「さあ、脱いで脱いで」
と後ろから万理が陽太のスーツの上着を脱がせていると、今、到着したばかりの律子も、コートも脱がず、バッグも持ったまま、加勢する。

「スーツもいいけど、ワイシャツだけっていうのも、色気があっていいわよねーっ」
と盛り上がっている二人の横で、陽太に装束を着せてみたヨーダがすごい速さで待ち針を突き刺している。

 ……なんか鍼灸院で鍼を打たれてるみたいだな。

 っていうか、騒ぐ二人と冷静に針を刺す老婆の対比がすごすぎて怖い。

 と深月が思ったとき、後ろで声がした。

「深月」

 気配もなく、清春が後ろに立っていた。

「お前、いつ、船長の裸を見たんだ」

 船長の裸と言うので、なんとなく、船のデッキの端に立ち、上半身裸で腕を組んで立っている陽太が頭に浮かんだが。

 おそらく、そういう意味ではないのだろう。

「……え、職場で」

「なんで職場で」

「秘書だから」
と理由にならないことを言ってしまったが、会社勤めをしたことのない清春は、

「……そうなのか」
と言った。

 ごめん、清ちゃん。

 秘書だからって、上司の胸板が厚いかなんて脱がせて確認しないし。

 第一、私はまだ秘書でもないんだけど。

 そう深月が思ったとき、則雄が、
「助けてやれ、深月。
 陽太が万理と律子とおばちゃんたちに襲われている」
と言ってきた。

 見れば、衣装合わせを終えて、装束を脱いだ陽太は、なんだかわからないが、笑っているおばちゃんたちに囲まれ、ぺしぺし、腕とか胸とかを叩かれている。

 ひとりのおばちゃんがなにか言って、みんながどっと笑う。

 迫力あるおばちゃんたちなので、陽太も苦笑いしたまま、じっとしているようだった。

「……あの、ちょっと怖くて近寄れないんですけど」
とそちらを見ながら、深月は、つい、薄情なことを言ってしまった。



 その頃、杵崎は自転車屋さんの前に居た。

 じっと見ている。

 ……じっと見ている。

 じっと見ている……。

「あ、あの、閉店なんですけど」
と困ったように中から出てきた店員が話しかけてきた。

 見つめたまま動かないので、どうしたものかと思ったのだろう。

「いや、また来ます。
 すみません」
と言って、杵崎は去っていった。





「お前、俺を見捨てただろう~っ」

 後片付けの最中、陽太が深月に文句を言ってきた。

 今もなにやら大きな声で話しながら、笑っている万理やおばちゃんたちを見ながら、陽太は言う。

「俺があいつらに襲われてもいいのかっ」

「いいんじゃないのか?
 減るもんじゃないだろう」

 装束の飾りを古い木箱に片付けながら、清春が横から言ってきたが。

 陽太は、
「いや、減る!」
と主張する。

「深月以外の女に触られたら、心がすり減ってく気がするんだ。
 今は」

 いや、前は……?と思いながら、深月が紙コップを片付けていると、電気ポットを手に、すすす、と陽太が寄ってきた。

「ところで、お前、日曜は暇か?」
と耳許で、ひそひそって言ってくる。

「に、日曜は……」
と言いかけた深月の横に、いつの間にか来ていた清春が、

「深月は日曜は神社を手伝ってるから、忙しい」
と勝手に断る。

「土日くらい休ませてやれ。
 職場で俺がこき使うのにっ」
と言う陽太に、

 ……こき使われるんだ、これから、と深月は指定のゴミ袋にゴミを放り込みながら、ちょっと暗い気持ちになっていた。

「ブラック企業め」
「なにをこの、ブラック神社がっ」

「……お参りすると、祟られそうですよね、ブラック神社」

 などと三人で言っている間に、結論を見ないまま、その話は終わってしまった。


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