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支社長室に神が舞い降りました

巫女舞

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「お、深月が舞うぞ」
と休憩時間が終わった途端、おじさんたちが言い出した。

 陽太は顔を上げて、舞台を見る。

 今日は衣装をつけて舞ってみるらしく、祭り用の巫女装束を着た深月が扇を手に立っていた。

 深月は、いつも背筋がすっとしているが、こんなときはまた特別姿勢よく感じられる。

 ゆっくりと舞い始めると、普段の落ち着きのない深月とは別人のような雰囲気を醸し出す。

 うーん。
 こういう姿を見せられると、確かに、手を出してすみません、とみんなの前で土下座したくなるな、と陽太は思っていた。

 だが、この舞は本来は小さな女の子が舞うものだ。

 子どもなら清らかであれても、いい年した大人の女には無理だろうよ、と思う。

 ふと気づけば、横でぼんやり杵崎も深月を見ている。

 今日、連れてくるのではなかったな……と陽太は後悔していた。

 普段の深月はおそらく、英孝の好みではない。

 だが、今の深月は、こいつの好みにドンピシャリなのでは……と横目に杵崎を窺いながら、陽太は不安になる。

 たいしたミスもなく舞い終わった深月が静かに下がっていった。

 少しずつ、拍手が起こる。

 杵崎が軽く手を叩いたあとで、溜息をつき、言ってきた。

「お前、よく一宮に手を出そうと思ったな」

「……あいつ、普段から、あんなじゃねえだろ」
と陽太が小さな声で言い訳をしたそのとき。

 脇に下がった深月は、なにをしたのやら。

「深月ーっ」
と舞台袖で怒鳴られていた。

 莫迦が……と思いながらも、いつもと変わらぬ深月の、
「ひーっ。
 すみませんーっ」
というマヌケ声にホッとする。
 


「お疲れー。
 深月、今日はもう上がっていいぞ。

 見学の人も居るし、陽太ももう疲れただろうから。

 衣装片付けたら、お前ら帰れ」
と舞台から下りると、則雄が言ってきた。

「あ、はい。
 ありがとうございますっ。

 お疲れ様でしたっ」
と深月が頭を下げたとき、やってきた陽太が、

「深月、逃げよう」
と言って手を握ってきた。

 いや、何処から?

 そして、なにから?
と思う深月に、

「幸い船もある」
と陽太は言ってくる。

 貴方、船で何処まで逃げる気なんですか?

 明日も仕事ですけど、
と思う深月を陽太は急いで連れ出そうとする。

「さあ、帰るぞ」
と言う陽太の背後から現れた清春が、

「待て」
と言って、グッと陽太の肩をつかんだ。

「深月は俺が連れて帰る」

「なんだとっ?」
と睨んだ陽太に、

「……自分の家だから」
と清春は言う。

「そうだったな……」
と深月をつかむ手を離さないまま陽太は言った。

 そして、
「兄貴が恋敵とかややこしいぞ」
と深月に文句を言ってくる。




 結局、陽太も杵崎も一緒に家まで送ってくれた。

 夜道を歩きながら、陽太がボソリと言ってくる。

「さすがお前の兄貴だな。
 テンポがおかしくていまいち喧嘩にならん」

 いや、ならなくていいんですよ、と思う深月の横で、杵崎は興奮したように、神楽について清春に質問していた。

「杵崎さん、連れてきてよかったですね」
と深月は陽太に笑いかけたが、

「いや、よかったんだか、悪かったんだか……」
と陽太は曖昧に呟いていた。


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