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支社長室に神が舞い降りました

私は眠れなかったんですけどね……

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「昨夜はお前のおかげでよく眠れたよ」

 深月が支社長室に行くと、笑顔の陽太がそう言ってきた。

「そうですか。
 よかったです」
と言いながら、深月は、

 私はかえって眠れなくなりましたけどね、と思っていた。

 よく考えたら、これだけのイケメンで、しかも御曹司。

 今まで誰とも付き合ったことがないはずもない。

 ……いや、だからどうってわけでもないですけどね。

 ええ、本当に。

 ただ、昨夜聞いたみたいな、どきりとするようなセリフを他の女にも言ってやがったのかな~と思うと、ちょっとイラッと来るだけです、
と思う深月に、陽太が訊いてくる。

「お前、兄貴とはふしだらなことはしてないだろうな」

「いや、だから、兄なんで……」
と言ったが、

「わからないじゃないか」
と陽太は言う。

「だって、あいつ、お前とひとつ屋根の下で暮らしてるんだろ?
 そんな状況で正気を保てるとは思えん」
と陽太は本気で心配し始めた。

「いやあの、買いかぶりすぎですよ。
 別に私、モテませんし」
と深月は赤くなりながらも言ったが、陽太は、

「買いかぶってはいない。
 実際、モテてるじゃないか。

 俺と清春に。

 あと、もしかしたら――」
と言いかけたので、

 もしかしたら……?
と陽太の顔を見つめてみたが、陽太は何故か、そこで沈黙した。

「いや、拷問されても言うつもりはない」
と言い出す。

「敵に塩を送ることになったら嫌だからな」

 いや、しませんけどね、拷問……と思ったとき、

「ところで、それはなんだ?」
と陽太が深月の手許を見て訊いてきた。

「ああ、手提げ金庫です」

 深月はまだビニール袋に包まれたままの新品の手提げ金庫を見下ろし、言った。

「そうじゃない。
 何故、手提げ金庫を持っているのかと訊いてるんだ」

「いや、電球とかトナーとか、此処に来る口実に持ってきてたんですけど。
 今日はなにも思いつかなかったので、ちょうど目の前にあったこれを」
と言って、

「よくあったな、そんなもの……。

 ていうか、重いだろうが。
 とりあえず、置け」
と言われてしまった。




 失礼しました、と深月が廊下に出ると、杵崎がやってくるところだった。

「また支社長室で、いちゃついてたのか」
と睨まれたので、

「いちゃついては……」
と言いかけて、深月は、はっ、と振り向く。

 廊下の曲がり角の白い壁を見ながら深月は言った。

「今……、人の気配が。
 犯人ですかね?」

「……なんのだ」

 いや、隠れて見てるなんて怪しい人ではないかと思っただけなのだが……。

 そのとき、深月のスマホのアラームが小さく鳴った。

「あっ、十時ですね。
 ちょっと社内見学行ってきますっ」

「たまにはちゃんと仕事しろよ」
と口を開けば毒を吐く杵崎に見送られ、行ってきます~と深月は急いで、下の階に下りた。
 


 深月が準備を整えて、一階受付で待っていると、そのうち、小学生たちがやってきた。

 かわいいなーと思っていたら、おじいさんもやってきた。

 かわいいなー。

 かわいくないジイさんになる人もいるけど、このおじいさんはお地蔵様みたいで、ニコニコしててなんだかかわいい、

と微笑んで見ていると、総務の課長がやってきて、そのおじいさんを小学生と一緒に連れて歩いてくれ、と言ってくる。

「社内見学を見学されたいそうなんだ。
 先生にはお話ししてあるから」
と小声で課長が言う。

 社内見学の見学ってなんだ……?
と思いながらも、まあ、いいか、と思った深月は、

「じゃあ、出発しますよ~」
と小学生とおじいさんを連れて、工場見学の旅に出た。



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