36 / 95
支社長室に神が舞い降りました
私は眠れなかったんですけどね……
しおりを挟む「昨夜はお前のおかげでよく眠れたよ」
深月が支社長室に行くと、笑顔の陽太がそう言ってきた。
「そうですか。
よかったです」
と言いながら、深月は、
私はかえって眠れなくなりましたけどね、と思っていた。
よく考えたら、これだけのイケメンで、しかも御曹司。
今まで誰とも付き合ったことがないはずもない。
……いや、だからどうってわけでもないですけどね。
ええ、本当に。
ただ、昨夜聞いたみたいな、どきりとするようなセリフを他の女にも言ってやがったのかな~と思うと、ちょっとイラッと来るだけです、
と思う深月に、陽太が訊いてくる。
「お前、兄貴とはふしだらなことはしてないだろうな」
「いや、だから、兄なんで……」
と言ったが、
「わからないじゃないか」
と陽太は言う。
「だって、あいつ、お前とひとつ屋根の下で暮らしてるんだろ?
そんな状況で正気を保てるとは思えん」
と陽太は本気で心配し始めた。
「いやあの、買いかぶりすぎですよ。
別に私、モテませんし」
と深月は赤くなりながらも言ったが、陽太は、
「買いかぶってはいない。
実際、モテてるじゃないか。
俺と清春に。
あと、もしかしたら――」
と言いかけたので、
もしかしたら……?
と陽太の顔を見つめてみたが、陽太は何故か、そこで沈黙した。
「いや、拷問されても言うつもりはない」
と言い出す。
「敵に塩を送ることになったら嫌だからな」
いや、しませんけどね、拷問……と思ったとき、
「ところで、それはなんだ?」
と陽太が深月の手許を見て訊いてきた。
「ああ、手提げ金庫です」
深月はまだビニール袋に包まれたままの新品の手提げ金庫を見下ろし、言った。
「そうじゃない。
何故、手提げ金庫を持っているのかと訊いてるんだ」
「いや、電球とかトナーとか、此処に来る口実に持ってきてたんですけど。
今日はなにも思いつかなかったので、ちょうど目の前にあったこれを」
と言って、
「よくあったな、そんなもの……。
ていうか、重いだろうが。
とりあえず、置け」
と言われてしまった。
失礼しました、と深月が廊下に出ると、杵崎がやってくるところだった。
「また支社長室で、いちゃついてたのか」
と睨まれたので、
「いちゃついては……」
と言いかけて、深月は、はっ、と振り向く。
廊下の曲がり角の白い壁を見ながら深月は言った。
「今……、人の気配が。
犯人ですかね?」
「……なんのだ」
いや、隠れて見てるなんて怪しい人ではないかと思っただけなのだが……。
そのとき、深月のスマホのアラームが小さく鳴った。
「あっ、十時ですね。
ちょっと社内見学行ってきますっ」
「たまにはちゃんと仕事しろよ」
と口を開けば毒を吐く杵崎に見送られ、行ってきます~と深月は急いで、下の階に下りた。
深月が準備を整えて、一階受付で待っていると、そのうち、小学生たちがやってきた。
かわいいなーと思っていたら、おじいさんもやってきた。
かわいいなー。
かわいくないジイさんになる人もいるけど、このおじいさんはお地蔵様みたいで、ニコニコしててなんだかかわいい、
と微笑んで見ていると、総務の課長がやってきて、そのおじいさんを小学生と一緒に連れて歩いてくれ、と言ってくる。
「社内見学を見学されたいそうなんだ。
先生にはお話ししてあるから」
と小声で課長が言う。
社内見学の見学ってなんだ……?
と思いながらも、まあ、いいか、と思った深月は、
「じゃあ、出発しますよ~」
と小学生とおじいさんを連れて、工場見学の旅に出た。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる