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理由がありませんっ
考えすぎて寝られませんっ
しおりを挟むちゃんとやってよーと空太に言われたので、夕食後、もう一度、あんたがたどこさに付き合おうかと思ったら、今度は、空太はマンカラをやると言い出した。
マンカラは木の入れ物と綺麗なおはじきのようなものを使ってやる紀元前からあるボードゲームだ。
最近、空太はこれにはまっている。
深月が空太にズタボロに負けたところで、空太の母、喜美が迎えに来た。
ちなみに、清春は全勝して、空太を泣かせていた。
子どもにも容赦ない奴……。
いや、自分も別に手加減して負けたわけではないのだが……。
「ばいばーい。
また遊んであげるね、深月ー」
と玄関で喜美に抱っこされた空太に手を振られる。
こらっ、と空太に言った喜美は、
「ありがとう、深月ちゃん。
これ」
とお菓子をくれた。
最近できたお店の可愛いクッキーの詰め合わせだ。
それを手に機嫌よくリビングに戻っていると、
「単純だな」
と清春が言う。
さっきまで、空太に振り回されて、ヘトヘトになっていたからだろう。
いや、誰だって美味しいものをもらったら機嫌よくなるはずだ。
「はい」
と深月は一番大きなクッキーを清春に渡した。
「……ありがとう」
サクッと音をさせて齧った清春は、
「うん、美味い」
と言う。
ちょっと笑った清春に、
「単純だね」
と言い返してやると、
「……そうじゃない」
と言う。
なにがそうじゃないんだ?
と深月は思ったが、薄暗い廊下で見つめられ、どきりとしてしまったので、
「あ、そろそろお風呂入ろっとっ」
と言って逃げてしまった。
いや~、プロポーズは忘れてくれとか言われても、思い出しちゃうよな~。
そう思いながら、風呂上がりの深月はベッドに腰掛け、そこに投げていたスマホを見た。
あ、メッセージが入ってる。
陽太船長からだっ。
慌てて見ると、
『電話していいか?』
と入っていた。
ええっ?
いつ入ってたんだろっ、と慌てて確認する。
お風呂入る前のようだった。
もう待ってないかもしれないな、と思いながら、慌てて返信してみた。
大丈夫ですっ、とスタンプを送る。
すると、すぐに既読になり、電話が鳴った。
えっ?
ずっと見てたのかな、スマホ。
申し訳ないと思うと同時に、ちょっと嬉しい気がした。
「なにしてたんだ?」
「清ちゃんと……」
清ちゃんと従兄弟の子と遊んでいました、と言いかけ、
いや、メッセージが入ったときには、お風呂に入ってたんだったっけ、と思い出し、
「お風呂に入ってました」
と言って、
「清春と!?」
と訊き返される。
話が変な方向につながってしまったようだ……。
「ちっ、違います」
と深月は慌てて訂正する。
「清ちゃんと一緒に従兄弟の子と遊んでから、お風呂に入ったんです」
「間をすっ飛ばすな。
今度舞うとき、手にしている剣であいつを殺すところだった」
と陽太は言う。
いや、あれ、神聖な剣ですし。
っていうか、切れませんけどね……。
本物の剣を使って舞うところもあるようだが、ここのは偽物だ。
「でも、寝る前に話せてよかったよ」
と陽太は少し優しい声になって言う。
「……まあ、お前の危険な発言により、剣を探してウロつくところだったが」
とちょっぴり脅されたあとで、
「一人暮らしも気楽でいいが。
夜寝る前と朝起きた時、ちょっとさみしい時があるんだよな。
でも、お前と目覚めた朝はそういうのなかったから。
……ちょっとかけてみた。
遅い時間にすまん」
おやすみ、と囁くように陽太は言った。
「お、おやすみなさい……」
お前と目覚めた朝はって。
私ではない人が居る朝もあるってことでしょうか。
いや、考え過ぎか?
……なんだか眠れなくなりそうだ、と深月は思った。
翌朝、陽太の船が横を走っていったので、眠れなかった怒りを込めて、猛烈に自転車をこいでみた。
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