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理由がありませんっ

巫女さんに偏見があります

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 その日、深月は社食で杵崎と一緒になった。
 他のテーブルがいっぱいだったからだ。

 同期の也美なりみが、
「やだもう、杵崎さんたら~」
と楽しげに杵崎と話している。

 深月はそんな杵崎を観察していた。

 なんなんだろうな~。
 杵崎さんと支社長が揉めた原因って。

 やっぱり、女性問題とか?

 などと考えてているうちに、深月の視線に耐えかねたらしい杵崎が、カレーライスを食べていたスプーンを置き、

「無言で見つめるなっ、一宮っ」
と文句を言ってきた。

 あっ、すみません、と謝ったあとで深月は、
「あの~、杵崎さんって、今、彼女とか居るんですか?」
と訊いてみた。

 支社長と彼女を取り合って、揉めたとか?
と思ったからだ。

 すると、同席していた関谷純せきや じゅんと純の後輩、そして、也美が、

『いや、あんた、それ訊く?』
『よく訊いてくれたわ、一宮っ』

『ありがとうっ、深月っ。
 でも、まさか、あんたも杵崎さんに気があるっ?』
と言う顔を同時にした。

「……居ないが。
 なにかそれで不都合でも?」
と杵崎は食ってかかるような口調で言ってくる。

「いえ、単に話の流れで」
と深月は言ったが。

 杵崎は、

 いや、お前。
 今、完全に話の流れをぶった切って言ったよな?
という顔をしていた。

 すると、也美がなんだかわからないが、足を蹴ってくる。

 なに? と見ると、小声で、
「コンパ、コンパ」
と言う。

 はいはい、と思いながら、深月は、
「杵崎さん、今度、みんなで呑みに行きませんか?」
と多少棒読み気味に言った。

「呑みに?」
と案の定、訝しげに杵崎は訊き返してくる。

 自分と杵崎の仲は決してよくはないからだ。

「えーと、コンパです。
 ああ、私は行かないかもですが」

「何故、お前が行かないコンパの話をお前がしてくる……」

 お前が話振ったんだから、お前が幹事じゃないのか、と糾弾された。

 いや、杵崎さん。
 そこはさらっと流しましょうよ~。

 仕事じゃないんですから。

 こういうところが、いい男なのに、モテない理由か?
と思っている間にも、女子たちは勝手に盛り上がり、

「杵崎さん。
 杵崎さん入れて、五人くらいでお願いしますー」
とか言っている。

「俺も居なくてもいいか……?」

 話を振っておいて、深月が行かないと言ったせいか、杵崎もそう言うと、

「やだーっ。
 杵崎さんが来てくれないのなら、行きませんよ~、私~」
とさりげなくテーブルの上の杵崎の腕に触れながら、也美が言った。

 そ、そうか、と言う杵崎は、そんなに表情には出ないものの、ちょっと嬉しそうだった。

 詳しい話はまたメンバーを集めてからということになり、その場は解散したのだが。

 もういい時間だったので、化粧ポーチを取りに総務に戻ろうとしたら、
「一宮」
と杵崎が後ろから呼びかけてきた。

 はい、と振り向くと、
「あの、新橋也美とかいうお前の同期、やけに積極的だったが、巫女さんじゃないよな」
と不安げに言ってくる。

「いや、なんでですか……」

「あまりにぐいぐい来るから、俺を騙そうとしてるんじゃないかと」

「あの、巫女さんが総出で貴方を騙しにかかってるわけではないですからね……」
と深月は言ったが、ちょっと気になっていることはあった。

 ポーチを手に化粧直しにトイレに行くと、ちょうど也美が居た。

 前髪のチェックをしながら、
「お疲れー」
と言ってくる。

「ねえ、也美。
 さっき、やけに杵崎さんに積極的だったけど。

 也美って、杵崎さんのこと好きだったっけ?」

 営業の誰かがいいと言っていたような、と思って訊くと、
「いや~。
 だって、まだ誰かと付き合ってるわけじゃないし。

 何処にチャンスがあって、誰と相性がいいかなんて、ちょっと話しただけじゃわかんないじゃん。

 だから、私、いいな、と思った人が居たら、積極的に話しかけるようにしてるの」
と也美は言う。

 なるほど。

 確かに、支社長だって、なんか怖そうな人だなと思ってたけど、そうでもないし。

 ……杵崎さんは今のとこ、そのまんまだけど、と思いながらも、也美の前向きな意見に、ちょっと納得もする。

 でも、そうして、キープ的な扱いをされることが多くて、杵崎さん、女性不信になったんだったりして、と思ったとき、

「お疲れー」
と言いながら、どやどやと先輩たちもトイレにやってきた。

 もう昼休みも終わりのようだ。

 お疲れ様ですーと言いながら、深月は急いで化粧を直した。


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