3 / 95
理由がありませんっ
支社長に朝食を作らせてしまいました……
しおりを挟む結局、支社長のお言葉に甘え、お風呂に入った。
ゆっくりお湯に浸かると、なにもかもが夢だったような気がしてくるが。
……まあ、この船で風呂に浸かってる時点でなにも夢じゃないか、と思ったとき、また誰かがノックした。
いや、だから、陽太だ。
ドア越しによく通る声がする。
「ゆっくり入れとは確かに言ったが、いい加減出ろ。
朝食を食べる時間がなくなるぞ」
すっ、すみませんっ、と慌てて深月が出ると、陽太は、もうスーツを着ていた。
「あれっ?
お風呂は……」
と深月が言い終わるより先に、
「いや、お前、長そうだから、ゲストルームのシャワーを浴びたんだ」
と陽太は言う。
「もう朝食は用意してある。
早く来い、冷めるだろうが」
「えっ? 誰が用意したんですか?」
「この船に俺以外いると思うのか。
っていうか、お前は他に誰かいると思ってたのに、半裸で浴室まで走ったのか。
お前はどんな種類の変態だ」
と畳み掛けるように言われてしまう。
深月が口を開くより早く、陽太は窓の外を見、
「デッキで食べるか。
いい天気だ。
なにか羽織って出ろよ」
と言ってキッチンから料理を運び始めた。
「わっ、私も運びますっ」
ええっ、今すぐにっ、と支社長に料理まで作らせてしまった深月は、慌ててキッチンに駆け込んだ。
広いデッキには小洒落たダイニングテーブルやソファがあった。
……雨降ったら、どうすんだ、これ。
などというショボイことを考えながら、深月は陽太とともに料理を運ぶ。
っていうか、カフェで出てきそうな朝食だ、と手の中にある白いシェル型の皿に盛られた支社長作の朝ごはんを眺める。
よく見たら、野菜を洗っただけ、とか。
チーズ切っただけとか。
ちょっと焼いただけとかのものばかりなのだが。
盛り付けが素晴らしい。
センスの違いか……と深月はちょっぴり落ち込んだ。
それにしても、いい天気だ。
ちょっと寒いが。
「明るくなりましたよねー。
お正月過ぎると、ぐっと明るくなる気がしますね。
夕方暗くなるのも、すごく遅くなるし」
広いダイニングテーブルに皿を置いた深月は少し伸びをするようにして岸の方を見た。
海風が神社の辺りと同じようで少し違う。
「この辺りも結構明るくなるの早いな」
と陽太が言ったので、
「支社長が前……」
とうっかり言いかけ、深月は黙った。
支社長が此処に来たのは、他の親族に飛ばされてきた説と、本社で役員になる前に一度支社でも見てこいと言われて、やってきた説があったのだ。
「そこで詰まられる方が気まずいだろうが。
大丈夫だ。
俺は必ず、返り咲く」
……飛ばされたんだな。
「そんなことより、さっさと食え。
お前の風呂が長かったから、冷めかけてるだろうが」
と言われたのだが、まだ充分料理は温かく。
注がれた紅茶も程よい温かさで、いい香りがした。
1
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
下宿屋 東風荘 5
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆
下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。
車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。
そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。
彼にも何かの能力が?
そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__
雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!?
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆
イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。
下宿屋 東風荘 3
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
そして雪翔を息子に迎えこれからの生活を夢見るも、天狐となった冬弥は修行でなかなか下宿に戻れず。
その間に息子の雪翔は高校生になりはしたが、離れていたために苦労している息子を助けることも出来ず、後悔ばかりしていたが、やっとの事で再会を果たし、新しく下宿屋を建て替えるが___
※※※※※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
可憐な花は咲き乱れる
翠恋 暁
キャラ文芸
普通の中学生、佐々木望はある日道端で太陽光を反射するものを見つけた。
それを拾ったことで引っ張って来られる様々な困難試練無理難題。
一体僕はどこで間違えたんだろうか。
間違いなくあの光るものを拾ったことだよな。
これからどうなるの僕の高校生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる