冷たい舌

菱沼あゆ

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謀略の見合い

青龍神社

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 こざっぱりとした林に囲まれた青龍神社。白く太陽に輝く石段を上ると、聳え立つ石の鳥居が迎えてくれる。

「ただいま、お祖父じいちゃん」

 透子が大きな鳥居を潜ると、境内を掃き清めていた祖父、公人こうじんが顔を上げる。

 公人は、最近ではすっかり穏やかになった目を皺の間に埋もれさせて手を止めた。

「おお、お帰り透子。
 見合い相手は蹴散らしてきたか?」

「蹴散らすって程のもんでもないよ」

 石畳の周りの白い砂は眩しく夏の初めの光を反射させていて、透子は目をしばたいた。

 境内のあちこちには、樹齢何百年という太い幹を持つ木々が影を落としている。

 公人の居るその巨大な影法師のひとつに入りながら透子は言った。

「向こうも叔父さんに勧められてきただけで、本人、全然その気はなかったんだって」

 それを聞いた公人は、揉み手をせんばかりに喜んでいた。

「それじゃあ、今日でその話は終わりじゃな」

「うん、でもまあ、春日さんとはまた会うけどね」

 待て、と公人は、ストップ! という看板のように、手を突き出した。

「なんでまた、その男と会うんじゃい」

「だって、いい人だよ、春日さんて。
 またお話しましょうねって言うから、はいって」

 公人はどっと疲れが出たように年季の入った竹箒に縋る。

 お祖父ちゃん? と首を傾げる孫娘を怒鳴りつけた。

「お前とお友だちになりましょうなんて男がおるかっ。

 お前の鈍さは仕方ないとしても、和尚は何しとったんじゃ! 和尚はっ」

「和尚?
 なんでそこに和尚が出てくるのよ」

 孫娘の言葉など聞く気もなく、公人は徘徊するボケ老人のようにぐるぐる回り出す。

「儂はあれを婿にとって、此処を継がせると決めとるんじゃ。
 あれにもよく言い含めてある」

 言い含めてあるってことは、本人にも言ったわけ!?

 足を止めた公人は、透子を振り返って眉尻を上げる。

「なんじゃ透子。不満なのか?
 仲いいじゃないか、お前たち」

 お祖父ちゃん、と透子は片頬に手をやり、溜息まじりに言った。

「私、和尚を恋愛対象として見たことないのよねえ」

 おやそうかい、と公人は小馬鹿にしたように笑う。

「ほんとに一度もなかったかのう、透子」

 なんのこと? と嘯く透子を見上げ、可愛くないのう、と呟く。

「ともかく和尚は関係ないんだから、勝手なこと言わないでよねっ」

 可愛くなくて、結構! と勢いつけて社殿へと向かっていった。


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