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恋の予感がします
実はあなたが一番うさんくさいです
しおりを挟む男はアキの手を取り、言ってくる。
「アンブリッジローズよ。
不満があるのなら、王子の名を呼べ。
呼ばぬのなら、今すぐお前を我が部屋に連れ去ろう」
「だから、王子の名前がわかりませんってば」
だが、アキはそう言いながら思っていた。
私は王子に助けに来て欲しいのだろうかな、と。
今すぐ、自力で逃げられそうな気もするが。
えいっ、とフリーズドライとかで。
そんなことを考え、アキが迷っている間、近くにいた兵士になにかを命じていた。
「……今、調べさせている。
名を呼びたければそれからにしろ」
いい人だ。
「ちなみに、私はアントンだ」
「アントン様ですね」
男の黒い瞳を見つめ、確認するように言ったとき、扉が開いて、王子たちが現れた。
うちの王子だ。
「遅いぞ」
そう言い、いきなり、ぐいとアキの肩を抱いたアントンは勝ち誇ったように王子に言った。
「アンブリッジローズはお前より先に私という男を知ったぞ」
「なにっ?」
……なんか意味深に言ってますけど、知ったのは名前ですよ。
「お前に助けて欲しくば名を呼べと言ったのに、アンブリッジローズは呼ばなかった。
お前の名前を知らなかったからだ」
そう言われ、初めて気づいたように王子は呟く。
「そういや、名乗ってなかったな」
「……我々も王子王子としか呼びませんからね」
とラロック中尉も呟いていた。
「だが、お前の名を知らなかったことこそ、愛がない証拠だ。
名はその人間の本質を表すもの。
アンブリッジローズは真の意味で、お前という人間を知らないままなのだ」
あのー、それを言うなら、私はアンブリッジローズじゃなくて、アキなんですが。
でも……
この世界に来てすぐアンブリッジローズという名をもらったから、此処では、それがもう自分の名前ということになるのかもしれないが。
まさか、またこの名前が変わることなんてないだろうしな。
そう、このときのアキは思っていた。
アントンがアキの肩を抱いたまま、王子に向かい言う。
「だいたい、名前を知らなかったら、愛を囁けんだろうが」
「そんなことはない。
王子でいいじゃないか」
「王子なら、私も王子だろ」
それはそうかもしれないが、と王子はうっかり納得しかけたあとで、反論し始めた。
「いや、そもそも、何故、お前、そんなにアキ……アンブリッジローズを気に入っているっ。
この女の何処がそんなにいいと言うのだ!」
……いやあの、気に入ってちゃいけませんかね?
迎えに来てくれたはずの男に全否定された気分になり、アキは、もうこのまま、ここにいちゃおっかなーと思ってしまう。
まあまあまあ、と王様が割って入ってきた。
「とかもく少しゆっくりされてはどうですか。
一緒にお食事でも。
お話はそれからと言うことで」
立ち上がり、こちらに来ながらそう言って、王子をなだめようとする王を見ながら、ラロック中尉が小声で言ってきた。
「……王様の扮装をしている男かと思いましたが、本物ですか」
「本物みたいなのよね。
なのに、なんなのかしらね、このニセモノ感」
居酒屋のオヤジが客の喧嘩の仲裁に入ってくるみたいな王様を見ながらアキも呟く。
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ありがとうございます💞
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