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なんだかんだで魔法が使えました

王子、やめてください

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 栗とホタテのドリアのようなものを食べながら、アキは、
「私はもう此処を出ていきません」
と宣言していた。

 だが、
「いや、帰れ」
と包丁を手に後ろに立ったイラークが言う。

 包丁はなんとなく持っているだけで、脅しているわけではないのだろうが。

 というか、ないと信じたい……。

「お前たち、何度も此処に戻ってくるなよ。
 早く国に帰らないと、そのうち、うちの王子が誘拐されたとか。

 アンブリッジローズ様の国に監禁されたのではとか噂になって、戦争になるぞ」

 いや、と海老をむきながら王子が言う。

「我が偉大なるクローズ家は王子のひとりやふたり消えたからと言って、騒ぎ立てはせん」

 いや……それはそれで駄目だろと海老を食べながら、アキは思っていた。

 っていうか、クローズ家って。
 始まる前から終わってそうなんだが……と思っていると、

「どうでもいいが、アキ。
 その王子に海老をむかせるの、城に着いたらやめた方がいいぞ」
とアキの横で必死に海老をむいてくれている王子を見ながら、イラークが言ってきた。



「アンブリッジローズ様。
 残りの海老はお持ちください」

 出立しゅったつのとき、ミカがそう言い、カゴいっぱいの海老を渡して来た。

 なんという凄腕の漁師だ、ミカさん……。

 まだこんなにたくさんあったのか、とアキは驚愕する。

「しかし、海老は腐りやすいですよね」
と呟いたラロック中尉の言葉に、ミカがしょんぼりそうになったので、アキは慌てて、

「大丈夫。
 持っていける。
 ありがとうっ」
と早口に言った。

 いや、どうやって、と冷静なラロック中尉がこちらを見る。

 海老はまだ竹カゴの中で、かさこそ動いている。

 だが、このまま持ち歩いていては、すぐに死んで、腐臭を放つだろう。

「そ、そうだっ。
 ……フリーズドライッ!」
と叫んで、アキは両手をカゴにかざす。

 海老がフリーズドライされた。

 おおっ。

「海老、干からびたみたいになってるぞ、偽アンブリッジローズッ」

 その呼び方やめてください、イラーク様……と思いながら、アキは、

「これはこうしてですね」
と水分の飛んだ海老にお湯をかけてみた。

 海老が、アキの世界でやるより、ぴちぴちに戻る。

 やんやと見ていた人たちから喝采が起きた。

「すごいな、偽アンブリッジローズ。
 偽物とか言って悪かった。

 今度から、『ちょっと本物のアンブリッジローズ』と呼ぼう」
と大真面目にイラークは言ってくる。

「いや……ややこしいので、アキでいいです」



「仔うさぎ、またね」
とローブを羽織ったあとで、アキは仔うさぎのケージに指を入れ、ちんまり頭を撫でてやる。

 うさぎはアキの指をかしかし噛もうとする。

 その可愛らしさに思わず、笑ったとき、
「まあ、また来られるさ」
と王子は言った。

 かしかしうさぎを見ながら、アキは呟く。

「さっき思いました。
 イラーク様に帰れと言われたとき、まだ一度も訪れてはいない土地なのに。

 あなたと結婚するというだけで、そこが自分の帰る場所になるのだなと。
 女って不思議な生き物ですよね」

「俺は違う意味で不思議だと思ったな、あの言葉。

 イラークが常識的な大人かどうかはともかくとして。
 普通の大人はそう考えるということに」
とまだ年若い王子は言う。

「お前が俺と結婚するのなら、俺といれば、そこが家ではないのか。
 俺のいるところがお前のいるところじゃないのか。

 そこが何処でも敵地でも」

 王子がそう言い、こちらを見たとき、
「お待ちくださいっ、王子っ」
と叫んだ誰かが、玄関扉を跳ね開け、飛び込んできた。


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