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なんだかんだで魔法が使えました

そのうち、キャッシュレスですよっ!

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 なにかが木々の合間を抜けて、どどどどっとやってくる。

 イノシシの群れだ。

 急いで避けたが、中には驚いてよそに駆け出してしまう馬もいた。

 王子やラロック中尉の馬はさすがに賢く、動じなかったが。

 駆け抜けていくイノシシを見送りながら、王子が言う。

「あいつら、ぶつかるまで止まらないから恐ろしいんだ」

「イノシシですからね~」

 猪突猛進。

 突き進むのがお好きなようだ。

「でも、実際のところ、イノシシって、別に曲がれないわけではないですよね。

 そうだ。
 道路標識を森に置いて、教えてみたらどうですかね。

 此処から曲がれとか」

「……イノシシにか。
 どうやって教えるんだ、標識。

 お前の怪しい魔法でか」
と言う王子の横から、ラロック中尉が、

「アンブリッジローズ様の魔法をイノシシに使っても、イノシシがブロックに刻まれるだけだと思いますね」
と大真面目な顔で語ってくる。

 いや、しかし。
 現代社会に生きていた自分にとっては、野菜を刻む魔法が使えるだけでびっくりなのだが、と思うアキに王子が言ってきた。

「それとも、その標識とやらには、やはり魔力が宿っているのか?
 それを見ただけで、お前は金銭を払いたくなったのだろう?」

 いや、なってませんし。
 むしろ、激しく抵抗しました。

「いや、その魔力、人間にしか効かないと思いますね……」
と言ったあとで、アキは道路標識について説明をする。

「標識ってこのくらいのサイズの鉄の塊のようなものでできているのです。
 イノシシが突進してきて身の危険を感じたら、こう、

『左に曲がれっ』
と唱えながら、左に向かって殴りつけてみてはどうでしょう」

「……それ、標識じゃなくてよくないか?」
と王子が言う。

「いえ、なにごとも身体で教えた方がいいかと」

 どんな危険思想だ……と王子たちが呟いたとき、ああっ、とあちこちで悲鳴のような声が上がった。

「弁当を奪われましたっ」

「私もですっ」
と口々に兵士たちが叫ぶ。

 昼の弁当を突然、何者かに奪われたようだった。

 見上げると、今度は猿の集団が木の上に居た。

「おのれ、的確に食べ物を狙ってくるとは。
 まるで観光地のサルですね。

 次は小銭を奪って自販機でジュースを買うに違いないですっ」
と弁当を奪われ、いきどおったアキが言うと、

「自販機?」
と王子が訊き返してくる。

「自動で物を売る機械です」

「ああ、そういうのならあるぞ」

「えっ?
 あるんですかっ?」

「水が買えるんだ」

 旅のとき、重宝する、と王子は言う。

「まあ、そういえば、古代エジプトにも聖水の自動販売機がありましたもんね」

 確か、てこの原理を利用したものだったはずだ。

「私たちの世界では、サルたちがその自動販売機に人間からとったお金を入れて、物を買うんですよ。
 やつら、そのうち、カードを使って、キャッシュレスで買うに違いないです」
と思わず憤っていると、

「キャッシュレスとはなんだ」

 魔法か? と王子が訊いてくる。

「うーん。
 年配の人には、ほぼ魔法みたいなものかもしれませんね」

 その後、ふたたび出発しようとしたが、楽しみにしていた弁当を奪われ、全員が意気消沈していた。

 このままでは兵士たちの士気にも関わる。

「でも、疲れましたね。
 美味しいものが食べたいな~」

 そんなアキの呟きに、そうだな……と言いながら、全員ぼんやりしていた。



「……で、なんで、お前ら戻ってくる」

 なにを切るつもりなのかわからないでっかいナイフを手に腕を組んだイラークが言う。

「いやあ、どうせなら、イラーク様のお弁当が食べたいなと」

 飲まず食わずで馬を飛ばして戻ってきました、とアキたちが言うと、
「意味がわからん。
 飲まず食わずでそんなに走れるのなら、そのまま国に帰ればよかったのに」

 イラークは厨房に入っていく。

「ほら、さっさと座れ。
 早く食わないと泊まりの客が来るぞ」
と言いながら。

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