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玖 安倍晴明の恩返し

何故、素直に答えるんですか

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「なんで父と同じ服を着ているんですか」

 男の肩を強くつかんで、冨樫は言った。

「えっ?」

「あなた、何者なんですか?」

 やり手の秘書、冨樫がまるで壱花の失敗を問いただすときのように強く訊いたせいか。

 クラスにひとりはいそうな顔をしたその男は逃げ腰になりながら白状する。

「ぎ、銀行強盗ですっ」

 はっ、言ってしまったっ、という顔を男はし、冨樫は、

 何故、素直に答える……という顔をした。

「銀行強盗?」

 冨樫がいぶかしげに訊き返すと、

「あっ。
 でもまあ……、未遂なんですが」
と男は未遂なことをちょっと恥ずかしそうに言う。

 いやいや。
 この世には失敗した方がいいこともあるんだが……と思う冨樫の前で、男は、はあ、と溜息をついた。

「ほんとうに俺、ついてないんですよ。
 予言通り強盗は失敗するし」

 予言? と冨樫は訊き返したが、男はそのまま語り続ける。

「いきなりこんな場所に迷い込むし。
 うっかり銀行強盗だとか白状しちゃうし。

 いや、あなたが『なんで父と同じ服を着ているんですか』とか訊くからですよ~。

 ああ、この人、あの人の息子なのか、とか思っちゃって。

 ちょっと油断しちゃったじゃないですか」

 男は晴れない霧の中。

 近距離だから見える冨樫の顔を見つめて言う。

「そういえば、顔つき違うけど、似てますね。
 まあ、あの人の方が温厚そうだったけど。

 俺、たぶん、あんたのお父さんにこの服もらったんですよ」

 ……あの人、一体、なにしてんだ、と冨樫は思う。

 やはり生きてはいるようなのだが。

 もはや、人間とも思われず。

 たぶん、本人は人の世界へ帰りたいとも思っていない。

 だから、高尾に顔をやり、この男に服をやったのだろう。

 なにもかも、人にくれてやるな、と冨樫は舌打ちをする。

 そのせいで、今以上に、父が『人』から遠ざかっていく気がしたし。

 自分達への未練のなさを見せつけられている気がしたからだ。

「……そうだ。
 聞いてくださいよ。

 あんた、あの人の息子なんでしょ?」

 なんで、お父さんの息子なら、銀行強盗の話を聞かねばならんのだ、と思ったが、男は冨樫の返事も待たずに語り出す。

「そもそもさ。
 俺、本気で強盗なんてする気、なかったんですよね~」



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