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ささやかなる同居
……怖いっ
しおりを挟む万千湖は先に中に入り、まだ窓のところに立ち、純たちを見ている駿佑に言った。
「……純くん彼女がいるそうです」
「……何故、それを俺に報告してくる」
いや、言えと言われたからです、と思いながら、万千湖も外を見る。
比呂はまだ走り回っていた。
なにが楽しいのかよくわからないが、小学生男子はよく走る。
「そういえば、比呂くんが、ここ、これだけ広いのなら、ブランコとか滑り台とか置けるねって言ってました」
「ブランコに滑り台?」
「子どもは喜びますよね。
あ、私もちょっと嬉しいですけど、ブランコとか。
でも、ブランコより、あれが欲しいかな。
お洒落なハンギングチェア」
そう言い万千湖は笑って、比呂たちを見る。
駿佑が窓の外を見ていると、万千湖がひとりで先に戻ってきた。
いきなり、
「純くん彼女がいるそうです」
と報告してくる。
彼女? そりゃいるだろう、と駿佑は思っていた。
純は、アイドル、マチカの従兄なだけのことはあって。
長身でイケメン。
しかも、人も良さそうだった。
だが、彼女がいたらなんなんだ、と駿佑は思っていた。
純に彼女がいるかどうかに興味がない、という意味ではない。
……だって、まだ、その彼女と結婚が決まっているというわけでもないんだろう?
彼が、お前より、その彼女の方がいいと一生思っている保証でもあるのか。
いや、あの感じがよくて、自分も知らない白雪の今までを全部知ってそうなあの従兄が。
いつか白雪を好きになろうと。
白雪が彼を好きになろうと。
まあ、俺にはなんの関係もないことなんだが……。
そう思ったとき、万千湖が言った。
「そういえば、比呂くんが、ここ、これだけ広いのなら、ブランコとか滑り台とか置けるねって言ってました」
ブランコに滑り台か。
確かに広いから置けないことはないな。
親戚や近所の子どもとかが親に連れてこられたときの暇つぶしにいいかもな。
普段、近くの子たちに使わせてもいいし。
……いや、子どもが近隣の家からここまで歩いて来れるかは謎なんだが、と回覧回すのにも時間がかかりそうな、なにもない周囲を見渡す。
駿佑の頭の中で、庭にブランコと滑り台が置かれ、子どもたちが遊び出した。
「あ、私もちょっと嬉しいですけど、ブランコとか」
と言う万千湖の言葉が聞こえてくる。
駿佑の頭の中で、万千湖が見知らぬ子どもと一緒に二人乗りの小洒落たブランコに楽しげに乗っていた。
その子どもがちょっと大きくなり、ランドセルを背負う。
いや、ここからどうやって小学校に通うんだ。
俺か白雪が乗せていくしかないのか。
中学生になったら、自転車でいいか。
っていうか、この近くに学校なんてあるのか。
全然、そんなこと気にしてなかったがっ、と思って気がついた。
自分が想像していたその見知らぬ子どもが、万千湖と自分の子どもであることに。
いやいや、そんなこと、と思っている間に、みんなそろそろ帰ると言い出した。
双方の親族は笑って話しながら、帰る準備をはじめたが。
美雪が、ふと思いついたように言う。
「そうだ。
マチカさんの部屋の方も見せてよ」
すると、浅海も、
「あらそうね。
駿佑さんの部屋も見せて」
と言った。
それぞれが分かれて楽しげに見始めたが、駿佑は不安になる。
みんなが帰ってしまったら、俺と白雪の二人きり。
……怖いっ。
今のこの気持ちのまま、二人きりになったら、なにか余計なことを言ったりやったりしてしまいそうだっ。
万千湖の親族たちに自分の住まいを案内していた駿佑だったが。
「やだー、こっちも広いわねえ」
とどんどん見て行く浅海たちの最後尾にいた純と目が合う。
困ったように苦笑いした純の腕をつかみ、思わず言っていた。
「帰らないでください」
「えっ?」
「……まだいいじゃないですか」
「えっ? でも、みんなもう帰るって言ってるし……」
「……あなただけでいいんです。
ここから出ていかないでください」
人が良さそうなこの男を白雪が好きになったら嫌だな、と思ったくせに。
つい、その人の良さにすがってしまう。
だが、純は何故か、ここに一人留まってくれと懇願する自分に怯え。
今、ここにはいない万千湖に向かって叫び出す。
「万千湖、万千湖っ。
助けてっ。
俺、殺されるっ。
万千湖~っ!」
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