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ささやかなる見学会
いよいよ、見学会ですっ
しおりを挟む広い玄関を開けた万千湖は感激する。
「最近のお洒落な美術館みたいですねっ。
下駄箱も大きいですっ」
万千湖は共有スペースの下駄箱を叩きながら、
「これ、それぞれのスペースにもありましたよねっ。
下駄箱、なにを入れようかなっ」
とときめく。
下駄箱に入れるのは、下駄……じゃなかった。
靴ではっ!?
という顔をみんながする。
いや、万千湖はそんなに靴を持たないので。
いつも、下駄箱の空いているスペースに収納しきれない本を入れたり、玄関に飾る小物を入れたりしていたのだ。
様子を見に来た業者のおじいさんが、
「今の子でも、下駄箱って言うんだねえ」
と妙なところで感心する。
学校で先生達が下駄箱というので、みんな普通に下駄箱と言っていたから、感心されたことに万千湖は感心してしまった。
万千湖は玄関ホールの、女王様が、ほほほほ、と扇をはためかせ、下りてきそうな階段を上がる。
二階の読書スペースをそっと覗いてみた。
レースのカーテン越しに差し込む日差しの中に、ぽんぽん、と置かれた淡い色合いのクッション。
壁に作り付けの天井まである細長い本棚には置物と本が程よい感じに並んでいる。
「夢のようですね。
引っ越したその日に、本がぎっしり」
うっとりと万千湖が言うと、後ろで駿佑が、
「……これキッカケで家買うはめになったわけだから。
1800万の本のような気がするけどな」
と呟いていた。
見学会がはじまると、すぐに瑠美たちがやってきた。
「いやだっ。
なにこれ、すごいっ。
完成したら、よりすごくなってるじゃないっ。
私、住むわ、ここにっ!」
と瑠美は玄関ホールによく響く声で宣言する。
……住んでそうだ。
その辺の飾り棚の陰とか。
暖炉の中とかにひっそり……と万千湖は妄想する。
見学会には、近所の人たちや普通に見学の人たち、親や親戚なんかもやってきて賑やかだった。
だが、
「いや~、楽しい見学会でしたー」
と笑顔で清水たちも帰ってしまい、ガランとした玄関ホールにふたり取り残される。
万千湖は家の中を見回し、訊いてみた。
「課長。
ここはほんとうに私たちの家なんでしょうかね?」
「……自分の家じゃなかったら不法侵入だろ」
「なんか夢のようですよね。
あのとき、たまたま見た素敵なモデルハウスに、たまたまお見合いで出会った課長と、たまたま住んでるとか」
「途中までは、たまたまだが、家を買って、住むまでの過程はたまたまじゃなかったろ」
と言われる。
確かに。
結構、大変な道のりだった。
……それにしても、なんかみんないなくなって、シンとなったら、ちょっと緊張してしまうのですが。
この家にも、課長にも、と万千湖思う。
無言で一緒に玄関ホールに立っている駿佑を振り向き、ペコリと頭を下げた。
「え~と……
これからもよろしくお願い致します。
……ふつつかものですが」
思わず、ふつつかものですが、と付け足してしまったのは、そうそうになにか粗相をしてしまいそうだ、と思ったからだ。
顔を上げ、万千湖は照れ笑いをする。
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