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ささやかなる見学会

課長の実家に向かっています

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 金曜の夜、万千湖は指輪を見せに、また駿佑の実家に向かっていた。

 車の中で万千湖は、なにか欲しいものはないか、駿佑に訊いてみた。

「ないな。
 今、物増やしたくないし」

 前を見たまま、駿佑はそう言ってくる。

 いやまあ、確かにわかりますけどね。

 引っ越しに向けて荷物を減らしている万千湖にもその気持ちはよくわかった。

 それにしても、課長はともかく、私はまだ引っ越したばっかりだったのに。

 何故、あんなにも荷物が増えているのだろうか。

 100均グッズかな、と思ったとき、駿佑が言った。

「指輪のお礼なら、この間歌ってもらったろう。
 あれで充分だ。

 そんなことより、会社で指輪つけてろよ。
 せっかく買ってやったのに。

 この間も外してたろ」

 ……いや、いつの間にチェックしてるんですか、と思いながら、万千湖は言い訳をする。

「給湯室で外して、忘れないようポケットに入れて、そのままになっちゃうんですよね。

 ……ところで、課長。
 一応、訊いてみるんですが。

 トゲトゲのついた首輪とかいりませんよね?」

「トゲトゲのついた首輪?

 なんにするんだ?
 犬でも飼うのか?

 まあ、敷地広いし、近所とは離れてるから、問題ないとは思うが。

 散歩はちゃんとしろよ」

 いや、私は、あなたの首にはめようと思ってたんですが……。

 そう思う万千湖の頭の中では、首にスタッズチョーカーをはめた駿佑と自分があの人気のない山道を仲良く散歩していた。

 ……それはそれで悪くないな、と思っているうちに、駿佑の実家についていた。

「灯りのともった大きなおうち。
 仄かに香る晩ご飯のいい匂い。

 なんか最高のおうちですよね」

 車を降りながら、万千湖が笑うと、駿佑が黙る。

「どうしました?」
と振り返ると、

「いや……俺たちの家もそんな風になるといいなと思って」

 実家を見上げながら、駿佑はそう呟いた。

「そうですね。
 ……でも」

 でも? と駿佑が見る。

 仕事で疲れて帰ったら、家から、おいしいご飯の匂いがするところがポイントなのですが。

 ご飯、家が自動的に作ってくれるわけもないので、自分で作らないとですよね~と思い、万千湖は苦笑いした。

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