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ささやかなる見学会
コツコツ頑張りますっ
しおりを挟むお昼を食べたあと、それぞれの部署に戻ったり自動販売機に行ったりとみんなバラバラと動きはじめた。
万千湖は駿佑とカラの弁当箱を手に廊下を歩く。
「この間からずっと住宅メーカーさんとお話ししてるじゃないですか。
家のことで。
なにもかもお金の単位が大きいから、私、金銭感覚狂ってきてしまって。
この間、つい、いつもなら買わない、高い方のコンビニコーヒー買ってしまったんですよね。
……味の違いのわからない人間なので、あんまりああいうものには手を出さないんですけど」
と万千湖は深刻に語ったが、駿佑は、
「20円くらいしか狂っていないようだが、金銭感覚」
と言う。
「他にも、瑠美さんに誘われて行った3000円のランチをお得だって思っちゃったり。
100均行ったとき、家に支払うお金で、このお店、全部買い占められそうっ、とか思っちゃったり」
今、節約しないといけないのにっ、と万千湖は嘆いたあとで、
「ああでも、また買ってみたんですよ」
と鞄をゴソゴソする。
万千湖が取り出したのは、この間買った年末ジャンボではない、もっと当選金額の低い宝くじだった。
「……それこそが無駄遣いでは」
「でも、1000円当たったら、900円の儲けですよっ」
わずかな金額ですが、コツコツ稼ぎたいですっ、と万千湖は拳を作ってみせたが、
「3000円の当選で、すっかり味をしめているようだが。
コツコツ負けるのがオチだと思うが……」
といつも冷静な駿佑に言われてしまった。
ロッカールームで万千湖はまた瑠美と一緒になった。
宝くじの話になる。
「そういえば最近、ネットで宝くじ買えるらしいわね」
と化粧を直しながら瑠美が言ってくる。
「ええっ? その場合、どうやって神棚とかに上げて拝むんですかっ?」
と万千湖は叫んだ。
いや、うちの場合は、玄関の七福神様なんだが……。
「スマホを上げて拝むしかないんじゃない?」
「スマホ使えないじゃないですか」
そんなしょうもない話をしているうちに、万千湖の日記の話になった。
万千湖が日記になにもかも書き残しているという話をすると、
「えっ? なにもかもっ?」
と瑠美は驚き叫んだ。
パタン、とロッカーの扉を閉めて言う。
「私に彼氏ができたら、あんたの日記、焼かなきゃね……」
その迫力にとても冗談とは思えず、
「なんでですかっ」
と万千湖は怯える。
「だってあんた絶対書き残してるでしょうっ。
私についてイケメン探しに山のカフェまで行ったとかっ」
か、書いてますね、確かに。
「結婚前には、あんたの日記と手帳を焼かねばっ」
いや、だから何故っ?
「あんたが書き綴っている私の男性遍歴を隠滅せねばっ」
いや、書いてるの、私にあっちにイケメンがいる、こっちにイケメンがいると、カフェやキッチンカーに付き合わせた奴だけですよっ?
「あんたがなんかで事件に巻き込まれて、警察に日記や手帳を押収されたらどうすんのよっ」
「いや、それ、瑠美さんの結婚相手が警察の人でない限り、関係ないですよねっ」
っていうか、私、なんの事件に巻き込まれてる設定なんですかっ、と思ったとき、パタン、と後ろでロッカーの扉が閉まる音がした。
静かに聞いてた安江が瑠美に言う。
「どっちみち、それ、あんたが、この人がいい、あの人がいいって言ってるだけの妄想日記みたいなもんじゃない。
別に彼氏に見られても、なにもやましくないでしょうが。
ただ、気が多いってだけでさ」
「気が多いって思われるのが問題なんでしょーっ」
と揉める二人の声を聞きながら、何故、私の日記が瑠美さんの妄想日記扱い……と思っていた。
そんな感じにいつも通りの日々を過ごしているうちに、地鎮祭とご近所さんに挨拶回りをする日がやってきた。
まあ、ご近所って……
ものすごく離れているのだが。
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