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ささやかなる弁当
借金生活がはじまるんだろ?
しおりを挟む「お、お願いします……」
駿佑に宝くじ売り場に連れてきてもらった万千湖は、ヤバイ取引でもはじまるのか、という雰囲気で、白い台の上に置いた一枚の宝くじをずずずっと売り場のおねえさんに向かって押し出す。
なにこの緊迫感っ、という顔でおねえさんが見た。
万千湖の緊張が移り、おねえさんまで緊張してしまっているようだった。
これ、1等当選してるのかしら?
確認に持ってきたとか? と思っていたのかもしれない。
画面に表示された文字を見て、おねえさんは拍子抜けしたような顔をする。
「あ、おめでとうございます」
とおねえさんは棒読みで言った。
「6等 3000円です」
ええっ!?
と万千湖と駿佑は驚いた。
「3000円っ?
ほんとうにっ?
信じられないっ!」
3000円で、1等前後賞全部当たったかのように喜ぶ万千湖を見て、並んでいた客たちもいっしょに喜んでくれる。
「3000円かっ。
よかったな、おねえちゃんっ」
「ありがとうございますっ。
ありがとうございますっ」
「……いや、3000円なんですけど」
と先に正気に返った駿佑が大騒ぎに恐縮したように、すみません、と周囲の人たちに謝る。
「300円当たっても奇跡だと思ってたから動揺してしまったが、6等なんだよな」
「でも、私っ、こんなに当たったの初めてなんですっ」
と万千湖がまた喜び、よかったよかった、とみんなに祝われた。
「おめでとうございます。
3000円です。
ご確認ください」
おねえさんが3000円ののったトレイを差し出してくる。
「ええっ?
この場でいただけるんですかっ?」
「……高額当選じゃないからな」
3000円銀行に取りにこいとは言わないだろうよ、と駿佑に言われた。
「ありがとうございますっ。
なに食べに行きますかっ?
私、おごりますよっ」
車に乗り込みながら万千湖は言った。
「とっておけ。
借金生活がはじまるんだろ?」
と駿佑は言うが、この喜びを誰かと分かち合いたかったのだ。
「あの場にいらしたお客さんや売り場のおねえさんにもおごりたい気持ちなんですけどねっ」
「……いや、確実に足らなくなるよな」
まあ、当たった事実が嬉しいから別にいいというのはわかるが、と言う駿佑を、
「ありがとうございます、課長」
と万千湖は拝む。
「……いや、俺はなにもしてないが」
「だって、ここまで乗せてきてくださいましたし。
あの七福神様も買ってくださいましたよ。
すごい七福神様ですよね~」
どうやって作ってるんですかね? と笑うと、
「……工場で、ガチャンガチャンって作ってるんじゃないか?」
と駿佑は困りながら言ってきた。
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