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ささやかなる弁当

私の家のイメージ

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「課長、買ってくれようとしてたんですか?
 うちにまだ何枚もあるのに、あのタオル」

 車を降りながらそう言う万千湖に、
「別に欲しかったわけじゃない。
 せっかくお前がサインしたのに簡単に売られてて可哀想だなと思ったから、買い取ってやらねばと思っただけだ」
と言うと、

「いや~、簡単にっていうか。
 もう何年も持っててくれたんで。

 特に私のファンというわけでもないのに。
 ほんとありがたいですよ。

 どっちかって言うと、サチカちゃんのファンだったみたいだから、サチカちゃんにサインもらってあげればよかったですかね?」
と万千湖は言う。

「……お前の名前入りのタオルにか。

 っていうか、サヤカとか、サチカとか、サキカとか。
 なんで似た名前ばっかりなんだ、紛らわしいぞ」

 課長、サキカはいません……と万千湖に言われた。

「いや、だって、みんな本名に『カ』をつけただけなんで。
 サヤカさんが、みんなでカをつけたら、統一感出るよね~とか言い出して。

 あの頃はまだ黒岩さんも、そんなにやる気なかったから、そうかそうかって」

 サヤカだけは、そのまま本名のようだった。

「そんな適当なはじまり方で、よくあれだけ売れたな」

「はいもう、奇跡のようです。
 ほんとうに皆さんのおかげです」

 万千湖はまるで演歌歌手がコンサートで頭を下げるみたいな感じで、今、ここにはいないファンにお礼を言い始めた。

 いや、演歌歌手のコンサートみたいなというのは、ただの自分のイメージなのだが……。
 


 今日はいろいろ確認事項もあるので、あの当たったモデルハウスの中で契約を交わすことになっていた。

 外から今度自分たちが住むことになるモデルハウスを眺め、万千湖はしみじみと言う。

「ほんとうにこの家に住むんですね。
 なんだか信じられません。

 夢のようです。

 すでに家具とかそろってますけど。
 インテリアとか、ちょっと自分流にアレンジしてみたいですね」

 課長はもうなにか考えられましたか? と訊かれる。

「いや、特に……」

「私の住居部分、どんな感じが合うと思います?」

 ニコニコ万千湖は訊いてくるが、頭の中に浮かんだのは、豪華な家の中にあるたくさんの100均グッズだった。

「……100均グッズが上手く使われている感じかな」

 頭の中では雑多に買ってきたものが積まれていたのだが。

 それではさすがに夢がないだろうと思い、駿佑はそういう言い方をした。

「100均グッズ、いいですよね~。
 他には?」

 えっ?
 他に……っ?

 他にあるか、自分で考えろ。

 っていうか、なんでもいいが、散らかすなよ、と思う。

 共有部分は俺が気をつけておくが、お前の住居部分までは片付けられないからな。

 そう駿佑は思っていた。

 駿佑の頭の中では、建ったばかりの家の中、万千湖の住居部分だけが、もうごちゃごちゃになっていた。

 だが、万千湖は、ワクワクしたまま自分を見つめている。

「お前の家のイメージか。
 そうだな。

 ……まつぼっくりが落ちてるかな」

「それはさすがに持っていきませんよ~」
と万千湖は笑う。

 持っていきませんよって、まだ部屋に落ちているのかっ!?

「あのー、他には?」
とまた問われ、

「……まつぼっくりかな」
と答えながら駿佑は短い階段を上がり、玄関ドアを開けようとした。

 が、勝手に向こうから開き、清水が、

「お待ちしておりましたっ」
と飛び出してくる。

「えーと、他にはっ?」
と後ろで万千湖が叫んでいた。

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