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ささやかなる弁当

売られていく万千湖

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 さて、明日持ってく書類や印鑑はそろってるかな、と鞄の中を確認したあとで、また開けてみる。

 値がつり上がっていた。

 ……一円とかのまま放置されていたりしたら、白雪の名誉のためにも買い取ってやらねばと思うところだが。

 この分だと、大丈夫そうだな。

 そう自分に言い聞かせ、駿佑は風呂に入った。

 戸締りしてあと、また無意識のうちにスマホを開けてみる。

 値段まだ上がってってるじゃないかっ。

 物好きが多いなっ、と思いながら駿佑は、なんとか気持ちを落ち着け眠りについた。



 秤にのったマチカが金と重さを比べられ、売られていった。

 牛や藁といっしょにマチカが荷車に乗せられ、運ばれていくところで目が覚める。

 ……悪い夢を見た。

 寝汗をびっしょりかいたまま、駿佑はスマホを開けてみた。

 また値段が上がっているっ。

 なんでこんなに……とよく見てハッとする。

 気のない素振りで眺めていたのでよく読んでいなかったのだが。

 そのタオルは数少ない初期に売り出したタオルであるうえに、サイン入りだった。

 しかも、貴重な、今のサインになる前のサインだと書いてある。

 なんということだっ。

 誰が売り出したんだ、莫迦モノがっ。

 白雪はファンのために一生懸命書いたんだろうにっ。

 ……こいつが儲けるのは嫌だな。

 だが、俺に止めるすべはない。

 だったらせめて……

 おかしな奴の手に渡らないよう買うべきか。

 ……俺が欲しいから、というわけでは決してない。

 そんな言い訳を自らにしながら、駿佑は入札しようとしたが、そもそもそのサイトに登録していなかったので、新規登録から始めなければならなかった。
 


 ……なんだかわからない間に落札されてたな。

 どういうシステムだったんだろうな、あれ、と思いながら、駿佑は翌朝、住宅メーカーに行くために万千湖を迎えに行く。

 まあ、よく考えたら、俺が白雪のサイン入りタオルを買い取るというのもおかしな話だ。

 夜中だったし。

 夜眠い中、通販番組を見たら、どうしても買わねばっ、と思って、しょうもない物を買ってしまうとかいうあれと一緒かな、と思いながら、マンション前で万千湖を乗せる。

「おはようございますっ。

 いや~、いよいよ契約ですね。
 ドキドキしますね。

 そうだ。
 今朝早くにメッセージ入ってきたから、課長かなと思ったんですけど。

 小学校のとき、縦割り掃除班で一緒だった子だったんですよ」

 なんだ、縦割り掃除班って、と思ったが。
 一年生から六年生まで、全学年が入って構成される掃除のグループのことらしい。

「その子、この春卒業だから、大学の寮の荷物ちょっとずつ処分してたらしいんですけど。

 小学校卒業してからも仲良くしてたんで。

 デビューしたときも駆けつけてくれて、付き合いでタオル何枚か買ってくれたんですよ。

 それで、全部にサインしたんですけど」

 ……ん?

「それで、そのタオルを一枚売ってみたら、高値で売れたっていうんですよ。

 ありがとう、白雪先輩っ。
 引越しの足しにしますっ、とか入ってきちゃって」

 なんかお役に立てたみたいで~、と笑う万千湖に、

「そいつかっ」
と駿佑は叫ぶ。

「えっ? どいつっ?」
と万千湖は駿佑の迫力に慌てたように、車内や窓の外を見回し、キョロキョロとしていた。


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