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ささやかなる弁当

立派にOLをやっているようだ

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 黒岩は、万千湖がこの間出会った会社の先輩とやらとトイレに行くのを眺めていた。

 あんなに職場の人とも仲良くなって。
 立派にOLをやっているようだな、マチカ。

と駿佑や瑠美たちが聞いたら、う~ん、と小首を傾げそうなことを思いながら。

 黒岩にとって、苦労を共にしてきた『太陽と海』のメンバーは妹のようなものだった。

 解散してしまったのは残念だが、みんなの明るい未来を離れた場所から見守りたい。

 そう願っていた。

 まあ、なんだかんだでみんな普通の生活に飽きて、芸能界に戻ってきつつあるのだが。

 ……だが、こいつは飽きなさそうだな、と黒岩はトイレから出て来た万千湖を見る。

 万千湖は自分に向かって、ぺこぺこし、さっきの女性もこちらを見ながら、満面の笑みで頭を下げてくる。

 いい先輩のようだな、マチカ。

と黒岩は、今度は万千湖と鈴加が、ええっ!? と叫び出しそうなことを思う。

 いや、二人とも瑠美のことは好きなのだが。

 本人たちに訊いたらおそらく、
「面白い人だけど。
 いつも激しく振り回されてるから、いい先輩かと問われると、ちょっと~」
と苦笑いして言うことだろう。

 黒岩は思い出していた。

 喧嘩して前の事務所を飛び出し、実家に帰ったときのことを。

 家業は弟継いでいるし、どうしようかなと思いながら、日々、暇をもてあまし。

 なんとなく入った甘味処で、商店街の八郎に声をかけられた。

兼人かねとくん、芸能人やってたんだよね」

「マネージャーですが……」

「実は今度、商店街でアイドル作ろうと思うんだよ」

「……アイドル?」

 そうそう、と八郎といっしょに甘味処の店主が笑う。

「そのしるこ、おごるからさ。
 ちょっと手伝ってよ」

「……はあ」

 商店街の人たちには世話になっているし、どうせ暇だし、としるこ一杯で、『太陽と海』のプロデューサーになった。

 大変だったが、今となってはすべてがいい思い出だ。

 タウン誌の取材を受けたとき、サヤカが、
「端に行くと、太って写るよ」
と言い出して。

 みんなが真ん中で写ろうとして、トーテムポールのようになってしまったこととか。

 ……いっそ、完全なるトーテムポール状態なら、みんなが左右に顔を振って写れば、アイドルっぽい写真にならないこともなかったのに。

 マチカがいつものように、ぼうっとしていて、参加しそびれてたからな。

 トーテムポールとその横に立つ人の記念写真みたいになってしまった……。

 頼んで撮りかえてもらったが。

 そのあと、食事に立ち寄ったファミレスでは、マチカがメニューを見ながら、
「……トンチキってなんですかね?」
と言ってきたが、トンテキだった。

 またあるときは、学校からのプリントを見ていたマチカにサチカが、
「それ、なに?」
と訊いて。

「学校からの注意事項ですよ。
 『ネットトラベルに気をつけよう!』」

 旅立つなっ。
 お前は恐らく、一字間違っているっ。

 年下のユカに、
「マチカちゃん、これ訳して」
と言われたマチカが、

「悟空に手紙をかくことはできますか」
と訳して、

「マチカちゃん、ゴローだよ……」
と正されていたこととも。

「あ~、そうなんだ~。
 親しみやすいように、悟空なのかと思ってた~」
と笑うマチカが頭に浮かぶ。

 駄目な思い出、マチカ率高いな……と思いながらも、黒岩は万千湖とその先輩に向かい、ぺこりと頭を下げた。

 頑張るんだぞ、マチカ! と身内のように見守りながら。


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