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ささやかなる弁当
一人暮らしの女子の部屋に上がる気まずさ……
しおりを挟む爽やか雁夜の首に巻かれていた謎タオルのことは、とりあえず置いておいて、二人で弁当を買いに行った。
ビルの一階にある黄色い外観の小さなお店。
ほんとうに普通のおうちのお惣菜が入っている感じだったが、おいしそうだった。
「楽しみですねっ」
と言う万千湖と部屋に戻る。
一人暮らしの女子の部屋に上がる気まずさからか、玄関の七福神にじっと見られている気がした。
いや、弁当食べて、家買う打ち合わせするだけなんで、と七福神に心の中で言い訳したとき、
「あ、そこ、玄関にも洗面台あるんで」
とふかふかの真っ白なスリッパを出してくれながら万千湖が言った。
万千湖の部屋は、なかなか広い造りで。
玄関脇の廊下に小さな洗面台があった。
帰ってすぐ手を洗ったりできるようにだろうか。
言われるがまま手を洗っていると、
「あっ、課長。
そこタオルないですよねっ」
と万千湖が急いでタオルを持ってきてくれる。
意外に気が利くな。
「ありが……」
と受け取りかけ、手が止まる。
折り畳まれたそのグレーのタオルには、どんっ、と大きな青いアルファベットの文字がふたつ。
CH……?
駿佑は、ハッとした。
「MACCHAKA!(抹茶か!)」
と叫んでそれを広げる。
「MACCHAKA!(抹茶か!)」
と叫び広げたタオルだったが。
当たり前だが、タオルには、「MACHIKA」と書いてあった。
もちろん、「!」はない。
「いや、『抹茶か』ってなんですか。
どんな層を狙って作られたタオルなんですか」
万千湖に、もしかしたらこう言われるかも、と思っていたことをまるっとそのまま言われてしまう。
「ライブ会場とか通販で売ってたマフラータオルです。
課長がいちいち文字を読まれるとは思わなかったので。
そんなに広げて手を拭かないだろうし、ま、いっかと思って持ってきたんですけどね」
確かに普段なら広げてまで読まないな……。
雁夜が首から下げてたからだよ、と思ったが、言わなかった。
「このタオル、実は持ってる人少ないんですよ。
最初の頃売り出したやつなんで」
あいつはなんでそれを持ってるんだ……と思いながら、意外に片付いている万千湖の部屋でお弁当を食べた。
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