OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
48 / 125
ささやかなる弁当

そして、私たちは……

しおりを挟む
 
「万千湖っ」

 次の日の朝、給湯室で昨日帰りに買ったいい香りの紅茶を淹れていると、瑠美がやってきた。

昨夜ゆうべ、夢にあの方が出て来たのよっ」

 ……誰ですか、あの方って、と思いながら、万千湖はマイカップからティーバックを引き上げる。

「私の背後に影のある表情をして、あの黒いコートを着て立ってたのよっ」

 それ死神かなにかですかね……。

「運命かもしれないわっ」
と瑠美は言い出す。

「黒いコートって、もしかして、黒岩さんですか?」

「黒岩さん、名前まで素敵ね。
 いいわよね、影のあるイケメン」

 あの人の場合、常に疲れているからそう見えるだけでは……と思いながら、万千湖は訊いてみた。

「じゃあ、週末行かなくていいですか」

「なに言ってんのよ。
 それはそれよ、行くわよ」

 ……まあ、今のところ、今週末は課長に誘われていないので、別に行ってもいいのだが。

 そろそろモデルハウスの正式な返事もしないといけないしな~と思ってはいたのだが。

 なんだかんだで瑠美さんには世話になってるから、まあ、行くか、と思う。

 そのとき、タウン誌を見ながら雁夜が入ってきた。

 給湯室の突き当たりまで歩いて行き、棚にぶつかって戻ってきた。

「……お疲れ様です」
と二人で言うと、

「ああ、お疲れ様」
とようやくこちらに気づき、挨拶してきた。

「あ、そうだ。
 増本さん」

 は、はいっ、と瑠美は声を跳ね上げ、返事する。

「増本さんってカフェとかに詳しいよね?
 この店、ちょっと地図わかりづらいんだけど、場所わかる?」

 雁夜にタウン誌を見せられた瑠美は赤くなる。

 雁夜の顔が近くにあったからだろう。

 可愛いな、瑠美さん。

 ……でも、黒岩さんと日曜日のイケメンはどうなりました、と思わなくもなかったが。

「あ、わ、わかりますっ」
と言ったあとで、瑠美は暗い表情になる。

「デートとかですか?」

「ううん。
 この気を失うくらいの激辛カレーってやつが食べてみたいと思って。

 増本さん、激辛好きなの?」

 この店を知っていると言ったからだろう。

「今日、昼休みに行ってみたいんだけど。
 増本さん、一緒に行く?」

「はははは、はいっ。
 あっ、万千湖も一緒に行きますっ」

 えっ?
 私、激辛食べられませんけどっ? と万千湖は振り返る。

 二人で行けばいいじゃないですかっ。
 なに言ってんのよっ、緊張するじゃないのっ、と視線で揉め合う。

「そう。
 じゃあ、マ……白雪さんも一緒に行く?」
と雁夜が微笑んだとき、ちょうど給湯室の前を駿佑が通った。

「あ、駿佑も行く?
 激辛カレー」

「なんで好き好んで罰ゲームみたいなもの食べに行かなきゃならんのだ」

 ごもっともですよ、課長っ。

 課長と出会って、初めて意見が一致した気がしますっ、
と駿佑が、そんな莫迦なっ、と言いそうなことを思う。


 で、結局、四人で激辛カレーを食べに行った。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

処理中です...