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ささやかなる弁当
経歴詐称だろ
しおりを挟む結局、どっちに決めたんだろうな、と思いながら駿佑は、仕事終わり、万千湖にメールを送ろうとしていた。
すると、
「お疲れ」
と雁夜がやってくる。
自分の手にあるスマホを見て、
「マチカとメール?」
とちょっとうらやましそうに訊いてくる。
マチカじゃなくて、白雪だ、と思っていると、もう他の人間がいなかったせいか。
「いいなあ、アイドルとメールってすごくない?」
と雁夜は言ってきた。
こいつ意外とミーハーなのかな、と思ったが、普段の言動を思い返すと、そういうわけでもないようだ。
まさか、こいつ、ほんとにマチカのファンなのか。
だが、髪型変えたり、ちょっと髪の色を染めたり。
メガネ外したり。
髪と同じ茶系のカラコンにした程度の変装で、最初気づかなかったらしいじゃないか。
お前、ほんとうにファンなのかと何処から目線かわからないことを思いながら、雁夜を見上げた。
「普通のメールアドレスとかは俺も知らないぞ」
ショートメールで不便してないからな、と駿佑は言った。
「お前、白雪の何処がいい。
見た目は悪くないかもしれないが、どこにでもいるような……
いや、いないな。
……悪い意味で」
落ち着きがない。
得体が知れない。
突拍子もない。
そんな白雪の何処がいい?
雁夜、モテるのに、と本気で思っていた。
すると、雁夜が無言でスマホを差し出してくる。
そこには、全員で映っていたらしい『海と太陽』のメンバーから万千湖だけを拡大している写真があった。
手入れのいい長い黒髪に黒い瞳。
細い黒縁の丸メガネのせいで、顔の小ささと色の白さが強調されている。
シンプルだが、スタイルの良さがよくわかる短め丈の衣装。
可愛いっ!
と瞬時に思ってしまった自分の感想を駿佑は慌てて遠くに押しやった。
「……まあ、アイドルなんて、所詮は虚像だからな」
と駿佑は強がった。
今の万千湖も可愛いが、この黒髪黒目の万千湖の方が彼女本来の雰囲気にピッタリ合っていて、愛らしい。
御伽噺から抜け出てきたような、ちょっと浮世離れした、現実味のない可愛さだった。
商店街のおじさんが万千湖をイベントに引っ張り出してきたのは、人が足らなかったからだけではなくて。
自慢の姪だったからなのかもしれない。
アイドルとしてのマチカは所詮、虚像なのかもしれないが。
万千湖の場合、カラコン入れて、髪を染めている今の方がむしろ、仮の姿のようだった。
「まあ、確かに歌は悪くないのかも」
とアイドル、マチカの容姿に対するコメントは控え、強がりのように駿佑は言った。
「えっ?
聴いたの? 太陽と海の曲」
「いや、スマホからあいつの鼻歌が聞こえてきたんだ」
いや、鼻歌というか、熱唱だったが……。
「なんか聞いたことのない歌を歌ってた」
と駿佑は、
「聞いたことないとか、なんてことをっ。
そのマチカさんが口ずさんでいた太陽と海の代表曲『涙のショコラティエ』が入ってるCDはポスターとともに、ふるさと納税の返礼品になってたくらいなんですよっ」
と景太郎と船田が怒りそうなことを言う。
「でも、いいなあ、アイドルと見合いして結婚かあ」
そんなことを雁夜が呟く。
「なにがいい?
俺はあいつがアイドルだったなんて聞いてなかったし。
今回バレなきゃ言う気もなかったんだろ?
まあ、見合いしたからといって、特にする予定はないんだが。
もし、このまま、あいつと結婚してたら。
あとになって実はアイドルでしたとか、経歴詐称だろ」
と言って、
「……うらやましいような経歴詐称だね」
と言われてしまったが。
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