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ささやかなる弁当
なんでも欲しいものを買え
しおりを挟む「私もあんた見習って、お弁当作ってきたわ。
一緒に食べなさいよ」
そう言う瑠美に引きずられ、万千湖は自動販売機の前にある、テーブルや椅子があるスペースで他の女子社員たちとお弁当を食べた。
みんなはコンビニのお弁当やサンドイッチだった。
「万千湖みたいにお弁当作ってたら、雁夜課長が、
『それ、美味しそうだね』
とか言ってくるかもしれないしー」
と野望を語る瑠美に、福田鈴加が、
「でも、それほとんど冷凍食品ですよね」
と指差し、手をはたかれていた。
……あの、そこは私を見習わなくていいと思うんですけど、瑠美さん、と万千湖も思う。
そのとき、弁当箱危うく生ゴミ事件のときにいた、瑠美と同じシステムの、長髪ロングの柴田安江が、ぺし、とコンビニ弁当についていたタレの小袋を落とした。
身を屈めてそれを拾おうとする彼女を隣に座っていた万千湖が止める。
「それ、拾わせてくださいっ」
え? 拾わせてください……? という顔をする彼女の目の前で、万千湖はそれを取り出した。
100均で買ったというか、買ってもらった必殺アイテムだ。
住宅展示場に行ったあと、100均で七福神といっしょに駿佑が買ってくれたのだ。
あの日、
「今日も付き合ってもらって悪かったな。
なんでも欲しいもの買ってやるから、入れてこい」
と駿佑にカゴを渡された。
断ったのだが、
「気にするな、100均だ」
と駿佑は言う。
なにも買わずには終われそうになかったが。
買ってもらうのも申し訳ないので、とりあえず、七福神の置物をひとつ入れてみた。
だが、駿佑は、
「他にもなにか買え」
と言う。
「他に欲しいものですか。
うーん」
と唸った万千湖は、
「あ、あれ、欲しいですね」
と手を叩いた。
「ハンドパワー!」
「……売ってないと思うが」
こういう奴ですよ、と万千湖は手を機械的に動かし、カゴの中の七福神を持ち上げて見せる。
「……UFOキャッチャー?」
違います、と万千湖は、また似たような動きをしてみせた。
「クレーン?」
「……マジックハンドでは?」
横を通っていた大学生っぽい男の子が、ついうっかり、という感じでボソリ、と答えた。
万千湖は、
「あっ、そうっ。
それですっ」
と喜び、つい、彼の手を握って握手する。
彼は赤くなり、駿佑が万千湖を引き離した。
しまった。
つい癖で、と万千湖は苦笑いする。
ま、そんなこんなで買ってもらったマジックハンドだ。
100均には立派なマジックハンドもあるが、これはカラフルで小さい、おもちゃっぽいやつだった。
だが……、
「あれっ? とれない」
タレの袋は周りが薄く。
床にひっついて上手くとれなかった。
「なにやってんのよ、貸しなさいよ」
と瑠美にとられる。
瑠美は器用にタレの袋をテーブルの脚のほうに誘導し、持ち上げた。
「すごいですっ。
瑠美さんっ。
めちゃくちゃ尊敬しますっ」
と万千湖は手を叩いて、
「もっと他のことで尊敬して」
と瑠美に言われる。
その瑠美は、安江に、
「いいから、タレちょうだい……」
と言われていたが。
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