上 下
17 / 125
ささやかなるお見合い

デートの打ち合わせ

しおりを挟む
 

 こいつはどういう意味で言ってるんだろう。
 俺としかデートしないとか。

 ……たぶん、なんにも深い意味はないんだろうな。

 駿佑はそんなことを考えながら、思う存分、サビ抜きの海老を食べたらしい万千湖とレジに向かった。

 払うという万千湖を押し除け、会計を済ませたとき、レジに来ようとしていた若い男、結構イケメン、がこちらを見て息を呑んだ。

「まち……」
と万千湖に声をかけようとする。

 万千湖が、ひっ、という顔をし、駄目ですっ、というように素早く手を振った。

 男は黙る。

 横にいた彼女らしき女が万千湖を、なに? この女、という目で見ている。

 男はちょっと困った顔をしたあとで、彼女に耳打ちした。

「嘘っ。
 ほんとにっ?」

 女の目から急に万千湖に対する敵意が消えた。

 だが、万千湖は今度は彼女に向かい、素早く手を振っている。

「ちょ、ちょっとお待ちください」
と万千湖はこちらに断り、彼らの許に急いで行った。

 何故か二人と握手をして戻ってくる。

 握手……。

 なんだろう? 和解?

 駿佑の頭の中では未開の土地の人たちが出会い、槍を手に片手を上げ、挨拶したあとで握手をしていた。

 女の方はまだ万千湖に手を振っていて、男の方が苦笑いして止めている。

「……知り合いか?」

「そうみたいです」

 そうみたいです?

 万千湖は店を出るとき、ぺこり、と彼らに向かい、頭を下げた。

「やだ、かわいーっ」
と叫んだのは女の方だった。

 ……最初睨んでなかったか? と思いながら、そちらを気にする自分の腕をつかみ、万千湖は急ぎ足で店を出て行った。



 回転寿司の店から、万千湖は振り返らずに、せかせかと出て行った。

 駐車場で駿佑を振り向き、
「では、お世話になりました。
 本日はどうもありがとうございました」
と頭を下げる。

「待て」
と言われた。

「ありがとうございましたって、何処へ行く」
「えっ? 帰ろうかと……」

「何故、帰る」

「はあ。
 お寿司の約束をしただけなので、もう解散かと……。

 あっ、そうだ。
 またおごってもらってしまったので、デートの際は、ぜひ、私におごらせてください」
と言ったあとで、万千湖は気づき、また、あっ、と言う。

「すみません。
 そうだ。
 デートの打ち合わせするの忘れてました。

 打ち合わせたの、コタツに蛇口を取り付けたら、なにに使うかだけでしたね」

 ははは、と笑って、駿佑に、それは打ち合わせる必要があるのか、という顔をされる。

 そのとき、あのカップルが店から出てくる気配がした。

 いや、気配というか、入り口のガラス越しに姿が見えた気がした。

 万千湖は、ヤバイ、と慌て、

「課長っ。
 デートについて、カフェででも打ち合わせましょうっ」
と駿佑を引きずって、つい癖でバス停に行きかける。

「待て、車に乗れ」
と言う駿佑に車まで連れて行かれた。

 手入れの行き届いた落ち着いたセダン。
 イメージ通りの車だ。

 万千湖は急いで車に乗り込むと、辺りを窺いながら叫ぶ。

「出してくださいっ」

 その落ち着きのない様子を見た駿佑が、
「……タクシーに乗って、あの車を追ってくださいとか言う人みたいだな」
と言う。

 いや、どちらかと言うと、あの車から逃げてください、なのだが。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

御神楽《怪奇》探偵事務所

姫宮未調
キャラ文芸
女探偵?・御神楽菖蒲と助手にされた男子高校生・咲良優多のハチャメチャ怪奇コメディ ※変態イケメン執事がもれなくついてきます※ 怪奇×ホラー×コメディ×16禁×ラブコメ 主人公は優多(* ̄∇ ̄)ノ

というわけで、結婚してください!

菱沼あゆ
恋愛
 政略結婚で、挙式の最中、支倉鈴(はせくら すず)は、新郎、征(せい)そっくりの男に略奪される。  その男、清白尊(すずしろ みこと)は、征に復讐するために、鈴を連れ去ったというが――。 「可哀想だから、帰してやろうかと思ったのに。  じゃあ、最後まで付き合えよ」

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ
恋愛
 ケダモノを148円で買いました――。   「結婚するんだ」  大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、 「私っ、この方と結婚するんですっ!」 と言ってしまう。  ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。  貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。

処理中です...