上 下
11 / 125
ささやかなるお見合い

俺は一体、どうしたら……

しおりを挟む
 
 翌日の昼。
 万千湖は急ぎの郵便物を郵便局に持っていくよう頼まれた。

 わーい。
 仕事中に外に出られるとか。

 しかも、いい天気。
 万千湖は会社の車で出発した。

 最初はちょっと慣れないな、と思ったのだが、すぐに運転もスムーズになり、鼻歌まじりに郵便局に向かう。

 用事を済ませ、戻ろうとしたとき、駿佑からショートなメッセージが入っていることに気がついた。

「暇なとき電話してくれ」

 相変わらず、短い、と思いながら、万千湖は車に乗り、電話してみた。

 すぐに駿佑が出る。

「いや、すまない。
 お前が廊下で増本たちに、郵便局に行くと話していたのが聞こえてきたから」

 駿佑は今、小会議室で、ひとり作業をしているらしい。

 それで、電話の方がいいと思ったようだ。

 長々とメールを打つのがめんどくさかったのだろう。

「さっき、部長に会ったんだ。
 昨日、二人で出かけたと報告しておいた。
 嬉しそうだったよ」

「そうですか。
 それはよかったですっ」

 そう言いながらも、ちょっと不安がよぎってもいた。

 人の良い部長がお喜びなのは嬉しいが。

 このまま部長に続けてお喜びいただくためには、結婚して、仲人を頼む、まで行かなければならないのではないだろうかと……。

 うまくいっている思っていた、自分が世話しているカップルが、いきなり破局したら、部長は悲しんでしまわれないだろうか。

 いや、しかし、一生のことだしな。

 そもそも、課長は私と結婚する気などないだろうし。

 私も今は結婚とか考えられないな。

 もうしばらく、ゴロゴロしていたい。

 前の仕事を辞めるとき、
「お前も可愛いお嫁さんになりたいとか言うのか」
と言われたが。

「いえ。
 半年くらいゴロゴロして過ごしたいです」
と答えて、

「……そうか」
とちょっと呆れたように、でも、ちょっと納得したように言われた。

 そうっ。
 可愛いお嫁さんになるより、今はゴロゴロッ。

 そう思って、ちょっとゴロゴロし。

 それから働きはじめたが、今も家ではずっとゴロゴロしている。

 最高だ、ゴロゴロ! と思っている万千湖に駿佑が言う。

「ともかく、もうちょっと調子を合わせておいてくれ。
 部長の息子さん、結婚が決まったみたいで、もうすぐ忙しくなるそうだし」

 そっちが忙しくなったら、俺たちのことなど忘れるだろう、と言う。

「忙しいとこ、悪かったな」

「いえ、こちらこそ。
 すみません。

 では」
と万千湖はスマホを助手席に置き、発進した。

 あ~、昼間、外にいるっていいな。

 緑がまぶしいっ。
 空が青いっ。

 万千湖は歌い出した。


 ……これは一体、どうしたら。

 小会議室で作業していた駿佑はスマホ片手にフリーズしていた。

 自分以外誰もいない小会議室には、万千湖の歌声が響き渡っていた。

 ……白雪。
 切れてないぞ、電話。

 いろんな意味で目が離せない奴だ、と思いながら、駿佑は、そっと通話を切ってあげた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

後宮に住まうは竜の妃

朏猫(ミカヅキネコ)
キャラ文芸
後宮の一つ鳳凰宮の下女として働いていた阿繰は、蛇を捕まえたことで鳳凰宮を追い出されることになった。代わりの職場は同じ後宮の応竜宮で、そこの主は竜の化身だと噂される竜妃だ。ところが応竜宮には侍女一人おらず、出てきたのは自分と同じくらいの少女で……。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択

栗栖蛍
キャラ文芸
雪の降る大晦日、京子は帰省中の実家で招集命令を受けた。 東京で大きな爆発が起きたという。 一人新幹線に飛び乗った京子はまだ15歳で、キーダーとして最初の仕事になるはずだった──。 事件は解決しないまま5年が過ぎる。 異能力者がはびこる日本と、京子の恋の行く末は──? エピソード1は、そんな京子の話。 エピソード2と3は高校生の男子が主人公。同じ世界に住む二人のストーリーを経て、エピソード4で再び京子に戻ります。 ※タイトル変えてみました。 『スラッシュ/異能力を持って生まれたキーダーが、この日本で生きるということ。』→『スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択』 ※カクヨム様・小説家になろう様・ノベリズム様にも同じものをアップしています。ツギクル様にも登録中です。 たくさんの人に読んでいただけたら嬉しいです。 ブクマや評価、感想などよろしくお願いします。 1日おきの更新になりますが、特別編など不定期に差し込む時もあります。

処理中です...