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ささやかなるお見合い
やっぱり鬼ですかっ!?
しおりを挟む万千湖が給湯室に早足で駆け込んだとき、彼女らは万千湖のお弁当箱を生ゴミ入れに捨てようとしていた。
「そこまでですっ」
万千湖はお弁当箱を持っている女の腕をつかんで止めた。
ウェーブのついた髪を手の込んだ編み込みでまとめている、目元の化粧がきつい感じの女だった。
「いたっ。
あんた意外と力強いわねっ」
「時間がないときは、機材も自分で運ぶのでっ」
なんの機材っ? という顔をして、彼女は万千湖を見上げる。
「お弁当箱にイタズラしないでくださいっ。
今、それ一個しかないんですからっ」
はあ? という顔を女はする。
「お弁当箱くらい、100均で買ってきなさいよっ」
そんな彼女に万千湖は怯むことなく、強い口調で言い返した。
「100均のお弁当箱って、食洗機にかけても大丈夫なんですかねっ?」
「……なにそれ、質問?」
万千湖は頷いた。
100均でお弁当箱を買ったことがまだなかったのだ。
「えーと……。
ほんとは駄目かも。
でも、私は入れちゃうわ、食洗機に」
そうなんですか、と万千湖が言うと、
「100均のは意外と可愛いのが多いわよ。
あっ、私とかぶらないでよっ」
と彼女は言ってくる。
「あなたが捨てなかったら、100均で買わなくていいから、かぶらないですよ」
なんで捨てるんですか、私のお弁当箱、と万千湖が言うと、彼女は怒りが再燃したらしく、また怒鳴り出す。
「だって、途中入社してきたばかりの子が、なんで雁夜課長に手作り弁当とか食べさせてんのよっ。
しかも、課長がお弁当箱洗ったとかっ」
うらやましい~っ、と彼女が叫んだそのとき、彼女の仲間たちが焦ったように彼女の肩を叩いた。
振り返ると、駿佑が立っていた。
「なにか揉めているのか」
と訊いてくる。
「雁夜がどうとか聞こえたが、そいつと雁夜は関係ないぞ。
そいつは、俺の……」
駿佑はそこで言葉につまった。
なんと言ったらいいのかわからなかったようだ。
そりゃそうだ。
付き合いで見合いしたけど、どっちも乗り気でない、という関係にすぎないからだ。
だが、そう素直に言ったら、じゃあ、関係ない人じゃないですか、となってしまうだろうし……。
「そいつは……
そいつは、俺の知り合いだ。
手を出すな」
そりゃあ、同じ会社だし、知り合いでしょうね……という顔をみんなしていたが。
さすが彼女らは駿佑には逆らわなかった。
「わ、わかりました。
すみませんでした」
そうみんなが謝ると、駿佑は、それ以上女の争いに口を挟むのも、と思ったのか、去って行った。
それを見送っていた編み込みの彼女がぼそりと言う。
「やっぱ、捨てるわ、この弁当箱」
「えっ?
なんでですかっ。
今、わかったって言ったじゃないですかっ」
「だってっ、なんなのよ、あんたっ。
雁夜課長だけじゃなくて、小鳥遊課長までっ。
100均で買う弁当箱代あげるから、これを、こう、生ゴミ入れにボスッと捨てさせてよっ。
そしたら、スッキリする気がするから~っ」
「な、なに言ってんですかっ。
それ、わー、初OL生活だ~っと思って、選びに選んで買ったお弁当箱なんですよっ。
そして、何故くれるの100円なんですかっ。
そのお弁当箱は1200円プラス消費税です~っ」
と万千湖は叫び、今にも生ゴミ入れに放り込もうとする彼女の腕をつかんで止めた。
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