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ささやかなるお見合い

話が弾む予感がしませんっ

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 見合いの日、緊張のあまり、万千湖は夜、書くであろう日記を頭の中で書いていた。

 だが、それは『ごめんなさい』で途切れる。

 現れた相手の顔を見た衝撃に。

 万千湖の見合い相手として現れたのは、雁夜やこの部長のいる人事部とは、反対側にある経理部の課長。

 小鳥遊駿佑たかなし しゅんすけだった。

「いやあ~、美男美女でお似合いだねえ」

 なんとか見合い相手が見つかって、部長はご満悦だったが、万千湖は困っていた。

 確かに、鼻筋がすっと通ってて、メガネの似合う、すごいイケメンで。

 すごく仕事もできるらしいんですけどっ。

 この人、死ぬほど愛想が悪いので有名な人ではっ!?

 万千湖は俯いたまま固まり、困ったこの気持ちをぶつけるために、また頭の中で日記を書こうとしていた。

「あっ、じゃあ、ここからは二人だけの方がいいよね。
 白雪くんは転職してきたばかりで社内のこともよく知らないから、教えてあげてね。

 仕事の話から入った方が話も弾むだろうし」

 ……弾む予感がしません。
 この人の目つきを見ていると。

 鋭く整った目からは、侮蔑と蔑みしか感じません、と思いながら、万千湖は固まる。

「じゃあ、小鳥遊くん、よろしくね~」
と人の良い部長はせかせかと出て行った。

 ぱたん……と扉が閉まってしまう。

 レストランの個室に、腕組みしてこちらを見下ろす、話したこともない隣の課長と二人きり。

 フリーズする万千湖に、溜息をつき、駿佑は言った。

「お前、別にこの見合い話、進めたいわけじゃないんだろう。
 俺もだ。

 だが、せっかく紹介してくれた部長の顔を潰すわけにもいかない」

 おや? 意外と義理堅い。

 整いすぎた顔で喜怒哀楽が感じられないから、勝手に情が薄いのかと思ってましたよ、と万千湖は駿佑を見つめる。

 だが、相変わらず、無表情だった。

「部長は家に帰ったから、社に戻っても気づかれないだろう。
 俺はもう帰る」
と駿佑は立ち上がる。

「お、お忙しいところ、申し訳ございませんでしたっ」

 頭を下げた万千湖に、
「何故、お前が謝る。
 お前も部長の人の良さに振り回されただけだろう」
と意外にも、やさしい言葉をかけてきた。

 だが、やはり、無表情だ……。

「じゃあ、また連絡する」

 出て行こうとした駿佑はワゴンを押してやってきた給仕の人に気づき、

「ああ、俺の分も食べていいぞ」
と言う。

 いや、どうやって連絡するんだ……。
 そして、ふたつは食べられません、と万千湖は笑顔で給仕の人が運んできたワゴンの上を見る。

「女の子はこういうの好きだろう。
 うちの娘も好きでね」
と部長が頼んでくれた豪華アタヌーンティーセット、二人分。

 駿佑はトイレにでも行ったと思っているのか、給仕の人は普通にセッティングして笑顔で去っていった。

 ぽつん、と個室にひとり残された万千湖は、

 どうするかな、これ……とテーブルいっぱいにある二つの大きなアフタヌーンティーセットを見つめる。

 とりあえず、写真撮るか。

 そして、この間買った簡単にスマホの写真がプリントできるやつでプリントして、日記に貼ろう。

 万千湖は誰もいなくなったのをいいことに、フォーマル寄りの淡いピンクのワンピース姿のまま、片膝をついて下から撮ったり、部屋の隅に行って、美しい庭園を背景に撮ったり。

 秋らしいチョコレート細工ののったマロンケーキや、栗のカヌレ。
 抹茶スコーンや秋鮭とアボガドのクロワッサンサンドを激写した。

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