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あなたのことだけわかりません

実は私より浪漫主義者ですね

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「……大丈夫なんですかね~?」
 帰りの車で咲子は呟く。

「意外とああいう夫婦がうまくいくもんだ。
 二人ともあんな言い方しかできない人間なんだろうが。

 きっと二人とも、披露パーティでお互いを見た瞬間に、恋に落ちたんだよ」

「……そうかもしれませんね」
と咲子は微笑む。

「行正さんは、ときどき、私より浪漫主義者ロマンチストですね」

「そんなことはない。
 だが……いきなり相手を好きになることは……

 あると思う」

 窓の外を見て、そう呟く行正に、咲子は衝撃を受けていた。

 一体、誰を好きになったんですか、行正さんっ。

「止めてくれ」
と行正が言った。

 車はあの祠の通りに差し掛かっていた。

 まだまだ走る車は少ないので、いきなり止めることもたやすい。

「通りかかったら拝むんじゃないのか?」
と行正が言ってくる。

「……ありがとうございます」

 なんだかんだでこの人、よく私の言ったこと、覚えててくれるよな、と思い、感謝を込めて微笑みかけたが。

 行正は厳しい顔つきのまま、視線をそらしてしまった。

 ……でも、なんか、こういう対応にも慣れてきたな、と思い、咲子は、ふふふ、と笑う。

 二人、車を降りて、祠に手を合わせた。

 目を開けた行正が問うてくる。

「なにを祈ってるんだ?」

「お二人が幸せになりますように。
 行正さんは?」

 俺もだ、と行正は言ったが。

 実は彼には、それ以外にも考えていたことがあった――。
 


 咲子とともに手を合わせた行正は、二人の幸せを祈るとともに、自分たちが未来永劫、ともに幸せに暮らせるようにと願っていた。

 こいつは、俺と一緒にいられるよう、祈ったりしないのだろうか、と思いながら、チラと見る。

 最初に二人でこの祠に来たときのことを思い出していた。



 あの日、車を止めてやり、祠に向かって歩きながら、行正は咲子に訊いた。

「……祠に毎日なにを祈ってるんだ?」

 は、話しかけたぞ、ついに。

 自分から確認事項でないことをっ。

 だが、訊くのが怖くもあった。

 この結婚が破談になりますように、と祈っているのではないかと思ったからだ。

 だが、咲子は、
「え?
 家内安全、健康第一です」
と答えてくる。

 ……よかった、違った、とホッとする行正の目に、ぽわっとした顔で、四字熟語を唱えてくる咲子が映り、らしくもなく、笑ってしまった。

 えっ? という顔で咲子に見られ。

 恥ずかしくなった行正は、笑ったことをなかったことにするように、厳しい顔で言った。

「ほら、さっさと歩け」

 咲子の背中を、トン、と突いて、祠へと急かす。

 ……そういえば、帰り、また車に乗るんだよな。

 もう一度、手を貸すとか恥ずかしいな。

 いっそ抱き上げようか、と、

「いやいやいやっ、その方が恥ずかしいだろっ」
とみんなに言われそうなことを思いながら、行正は咲子とともに祈った。


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