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あなたのことだけわかりません

やはり、知らない人と結婚するのは恐ろしいです

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 そこは、ルイスと懇意にしているという日本人の牧師がいる木造の教会だった。

 二人だけで結婚式をするのだが。
 逃してくれた咲子たちにも立ち会ってほしいと言う。

 文子は牧師の妻に借りたという簡素な白いウエディングドレスを着ていたが。

 それが文子のおとなしめの可愛らしい顔を引き立てていて素敵だった。

「このようなヒトを奥サンにできるとか感激です」
と満面の笑みでルイスは言う。

「ルイス先生、文子さんをよろしくお願いします」
と咲子は頭をさげたあとで、ふと、訊いてみた。

「それにしても、私、お二人の関係にまったく気づかなかったのですけれど。
 一体、いつからお二人は恋仲に?」

 二人は顔を見合わせる。

「いえ、別にそういうわけでは……」
と二人とも言った。

 文子が言う。

「別にルイス先生を好きとかいうのはなかったんですけど。

 お披露目パーティの間も、私、ずっと不安で。

 そもそも、咲子さんや美世子さんの話を聞いていると、結婚に不安しか湧かなくて……」

 咲子はそこで、自分を睨む行正の心の声を聞いた。

『お前はいつも友だちに俺のことをどんな風に話してるんだ……』

 この心の声は行正の実際の心情と完全に一致していたが。

 咲子以外の人間でも、行正の顔を見ただけでわかることだった。

「みんなが来てくれて、パーティは楽しかったのですけれど。

 昨日を含めて二度しか会ってない方との結婚は不安でしかなく。

 そこにちょうどルイス先生がいらして。

 私の手をとり、
『私と一緒に逃げましょう』と。

 そのとき、私、自分を見つめるルイス先生の澄んだ青い瞳を見ながら思ったんです」

 文子はルイスではなく、その背後にある日本的な図柄のステンドグラスを見ながら呟いた。

「ああ、この人なら……

 何度も会ったことがある、と」

 それは……先生ですからね、あなたの……。

「まあ、ちょっとわかる気がしますね」
と咲子は呟いて、わかるのかっ! と行正に驚愕の目で見られる。

「会ったこともない方と結婚とかよくあることですけど。

 身分やお人柄が仲人さんたちに保証されているとしても、やはり、知らない人と結婚するのは恐ろしいです」

『お前、俺のことも恐ろしがっていたのか』
という行正の心の声が聞こえてくるが。

 いえいえ。
 あなたは知らない人だから、ではなくて。

 その厳しい口調と蝋人形のような無表情さと、整いすぎた容姿が怖かったんですよ、と咲子は思っていた。

「ルイス先生なら、とても良いお人柄なことも、文子さん、実際に接してわかってますもんね」

『お前もルイスに逃げようとか言われたら、逃げてたのか』
という行正の心の声が聞こえてくる。

 ルイス先生が逃げようと……?

 まあ、よくわからないことを言う、ちょっと厄介な生徒だと思っていたらしい私にそんなことは言わないだろうけど。

 ……先生に、そんなことを言われても。

 私は……逃げないかな?

 咲子はチラと行正を見る。

「あ、えーと、ルイス先生は、いつから文子さんのことを?」

 口に出して行正が訊いてこないうちに、咲子はルイスに話を振った。

 ルイスは文子の手をしっかり握った状態で言う。

「いえ、別に文子サンを好きとかなかったんですけど。
 良い生徒のひとり、という感じで。

 でも、文子サンのお父様からパーティに招かれて。

 ふだんは控えめな装いの多い文子サンが、艶やかな着物を着て。
 いつも違う雰囲気で。

 綺麗だな、文子サン。
 この人、もう人のモノになってしまうのかと思ったら、寂しくなって。

 つい、手をつかんで『ワタシと逃げましょう』と言ってしまったんです」

 ははははは、とルイスは笑う。

 この二人は大丈夫だろうか……。

 咲子も行正も不安しかない気持ちで二人の式に立ち会った。


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