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蝋人形と暮らしています

行正の想い

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 人の愛読書を読むとその人のことが理解できるとかいうので、咲子の愛読書を読んでみたが、不安になっただけだった――。

 そんなことを考えながら、行正は玄関ホールに向かい歩いていった。

 清六だけでも不安なのに、清六以上の色男を家に招き入れるとは何事だ。

 咲子は、まだ悩んでいるような顔で女中たちと後ろからついて来る。

 いつものように見送りに出てくれるのだろう。

 ちょっと、ぼーっとしたところもあるし、訳のわからないことを言い出して、得体の知れないときもあるが、愛らしい妻だ。

 上官が持ってきたのは、断れるはずもない見合いだった。

 三条の跡継ぎである自分が結婚しないとかありえないし。

 相手もどうせ選べない。

 じゃあ、なんでもいいか。

 そう思っていた。

 世間体のために、妻という存在があれば、それでいいだけだから。

 叔父が言っていた。

 広い屋敷の中、妻と顔を合わせることはあまりなく。

 女中や下男ばかりと顔を合わせている、と。

 では、日常生活をストレスなく送るうえで、大切なのは、妻ではなく、女中や下男だな。

 そう行正は思っていた。

 ――使用人たちは厳選しなければな。

 三条家の使用人たちはみな、申し分ない者たちだ。

 使用人たちは横のつながりがあるという。

 彼らに口をきいてもらって、これと思う人物を紹介してもらおう、などと算段しながら見合いの席に臨んだ。

 妻となる女が現れた。

 一目で気に入った。

 ほんとうに棚ぼたみたいに、こんな理想通りの……

 いや、人が見てどう思うかは知らないが。

 自分好みの女が降ってきたりするとかあることなのか? とおのれの幸運を疑った。

 疑いと、初めて女性に好意を持ったという戸惑いで、見合いの席では、最初から最後まで険しい顔つきと、そっけない口調になってしまった。

 妻となるはずの咲子は、明らかにビクビクしていた。

 まずい、これは断られるかもしれないと思ったが。

 咲子にとっても、断ることは許されない見合いだったようで、結婚話はどんどん進んでいった。


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