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蝋人形とお見合いしました

あなたの目、腐っていますよ?

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「なんですの、昨日の行正さまとの熱いデエトはっ」

 次の日、女学校に行くと、いきなり、美世子がつかみかからんばかりに言ってきた。

「えっ? デエト?」

「二人仲良く、祠の近くの道を歩いてたじゃないっ」

「……見てたんですか」

「たまたまよっ。
 祠、拝みに行ったら、偶然出くわしただけよっ」

 ちゃんと拝みに行ってるんですか。

 意外と可愛い人だな、と咲子は思う。

「二人で時折、見つめ合ったりして、ふふふ、みたいな感じで歩いてたでしょっ」

「……美世子さん、あなたの目、腐っていますよ?」

 あの緊迫の散歩がどう見たら、そうなるのですか、と思いながら、咲子は言った。

「私、こう見えて、人の感情には敏感なのっ。
 あんたみたいな鈍い人とは違うのよっ」

 おおっと、美世子さん。
 人の心が読める私に喧嘩を売りましたねっ。

 咲子は、内心、ふふふと笑っていた。

「私も人の感情に敏感ですよ」

「そうかしらっ?
 あなたのような人が?

 じゃあ、今、私がなにを思ってるか、当ててごらんなさいよっ」

「じゃあ、もし、当たったら、この間、祠見に行った帰りに寄った甘味処で、あんみつおごってください」

「い、いいわよっ。
 勝負よっ」

 えっと……と咲子は美世子を見つめて言った。

「『やだ。
 なんか面倒臭いこと言い出した、この子。

 ちょっと喧嘩吹っかけただけなのに。

 あんみつ?
 あんみつがいいの?

 私はこの間食べそびれた、しるこセーキがいいわっ』」

「あ……当たってるわっ」
と青ざめる美世子の横で、文子が冷静に呟いていた。

「いや、それ、私にもわかりますけど」
 


 仲良く、ふふふふ、か。

 ほんとにそんな感じならいいんだけど、と思いながら、咲子は授業を受けていた。

 だが、そういえば、家まで送ってもらったとき、ばあやも出てきて、行正と少し話していた。

 子どもの頃から可愛がってくれていたばあやだ。

「こういうおうちに生まれたからには、嫁ぎ先は選べませんが。
 おかしな男に咲子さまを嫁がせるとか、絶対嫌ですからね、ばあやは」
といつも言っていたはずのばあやは、何故か行正とニコニコ話していて。

 あの愛想のない行正も、ばあやに対してだけは、少し口調がやさしかった。

 使用人の話になったとき、行正の顔を見ながら、ばあやは笑い出した。

「あらあら、まあ、そうですね。
 でも、三条様がご用意してくださったほどのお屋敷。

 若い人たちだけの住まいと言っても、住み込みの使用人は必要ですよ」

 ばあやと行正の間には、ちょっとほのぼのした空気が流れていた。

 私とだと、なにもほのぼのしないのだが……。



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