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蝋人形とお見合いしました

適当で、ゆるい感じで好きです

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 また沈黙の時間か~と思いながら、咲子が外を眺めていると、あの祠が目に入った。

「あ」
と咲子が声を上げると、行正が、

「どうした?」
と訊いてくる。

「いえ、いつも拝んでいる祠が目に入ったので」
と笑うと、行正は運転手に車を止めるように言う。

「降りろ」
「えっ?」

「せっかく通りかかったんだから、拝んで行け」

 そ、そうですか。
 では、遠慮なく。

 妙なところで気の利く人だな、と思いながら、咲子はまた行正に手を借り、車を降りた。

 まだまだ珍しい車の周りに、近くで遊んでいた子どもたちが寄ってくる。

 ぐるぐる回って眺めたり、小さな子がぺたぺた触ったりしはじめたが、行正は特に注意するでもなく、それを見ていた。

 赤子を抱えていた子守の女がそれに気づいて、慌ててやってくる。

「すみませんっ」
と彼女は必死に頭を下げて謝ってきたが。

 行正は、
「いや、別にいい」
と言って、咲子に祠のところまで行くように言う。

「……祠に毎日なにを祈ってるんだ?」

 唐突に行正がそんなことを訊いてきた。

「え?
 家内安全、健康第一です」

 そう四字熟語で祈っている。

 そんな祈り方が正しいかはわからないが、と思ったとき、行正が小さく笑った。

 えっ?
 今、笑いましたっ?

 なんか今、ものすごく美しいものを見てしまいましたよっ、と思いながらも。

 あの行正が笑ったことが信じられずに、咲子はその場に棒立ちになる。

 行正は今、笑ったことをなかったことにするように、厳しい顔で、
「ほら、さっさと歩け」
と咲子の背中を、トン、と突く。

 軍人の行正にそうされると、銃で押されているような気持ちになる。

 咲子は押された弾みで、少しよろけながら、前に進んだ。

 行正は、咲子と並んで小さな石の祠を拝んでくれた。

「よく道端の祠に手を合わせてはいけないとか言いますけど。
 ここは大丈夫ですよ。

 昔から近所の人たちが拝んでるとこなんで。
 なんでここにあるのか、いつからあるのか、由来は誰も知らないんですけどね」
と笑うと、

「適当だな、ここらの人たちは」
と行正は言う。

 はあ、適当で、ゆるい感じで。
 私は好きですね、と思ったとき、行正が、

「よし、さっさと戻れ」
と軍隊の上官のような口調で言ってきた。

 はっ、了解でアリマスッ、となにも正しくはなさそうな軍隊的な言葉遣いで思い、咲子は車に向かって歩き出した。

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