12 / 28
凶器を探しています
迷刑事の迷推理
しおりを挟む濡れ衣だ……と琳は思っていた。
となり町にいた水宗さんに電話をかけて、別の事件の犯人にしかけたのは私ではない。
本来、真っ先に、濡れ衣だ……と思うべきなのは、水宗なのだと思うのだが、何故か水宗は、ぼうっとしていた。
そのぼうっとした水宗が焦るでもなく、中本に言う。
「あの~、電話かけてきたのは、琳さんじゃなくて、うちの社長ですよ」
その言葉に中本は深く頷いた。
「では、社長が犯人ですね」
……いや、なんの。
「いや、なんのだよ」
と佐久間が店内全員の心の内を代弁してくれた。
「水宗さんを犯人に仕立てようとした犯人ですよっ」
中本は舌を噛みそうなことを高らかに言ったあとで、名探偵が推理を披露する前のように、喫茶店の中の空いているスペースを歩き回り始める。
そして、それをおばあちゃんたちがお茶を飲みながら楽しく眺めていた。
この店に来ると、退屈しないわ、というように。
「まず、社長は娘に目立つピンクのトラックと白いゾウをデザインさせたんです」
「いや、社長、最初、反対してましたよ、あのデザイン」
しょっぱなから話の腰を折るようなその水宗の反論は、中本に軽くスルーされた。
「そして、となり町のその犯行現場付近に水宗さんの車が通りかかったとき、社長は水宗さんに電話をかけ、防犯カメラに映るよう、トラックを止めさせたのですっ」
待て、と将生が言った。
「何故、社長に、今、トラックが何処にいるのかわかる?
トラックにGPSでもつけてんのか。
というか、その設定だと、となり町の殺人事件の犯人は、造園会社の社長ということにならないか?」
中本はまた高らかに言った。
「そうなんですかねっ?」
えっ?
今の疑問文……?
ものすごい自信満々に言ったから、『そうですっ』と言い切ったのかと思った……。
何事にも動じない琳も中本のあまりの迷推理に動揺が隠し切れない。
「なんで、いきなり造園会社の社長が犯人なんだ。
そもそも、となり町の殺人事件はどんな事件だ。
そして、その罪を自分とこの社員になすりつけようとするのは何故なんだ」
連続して突っ込んでくる将生に、中本は一瞬、怯んだ。
だが、すぐに、
「わかりましたっ」
と言う。
……わかったんだ?
「水宗さんと娘さんが恋仲で、お父さんとしてはそのことが腹立たしく、邪魔したかったんですよっ」
「いや……娘の彼氏が気に入らないからって、ブタ箱送りにしようとする父親、怖すぎだろ」
誰も嫁にもらってくれなくなるぞ、その娘、と将生が呟く。
「でもあの、そもそも、僕、その社長の娘さん知らないんですけど」
おずおずと口を挟んでくる水宗に中本が言う。
「そんなはずないです。
娘さんは、水宗さんと同じ美大で入学した年も学部も学科も同じなんですから」
えっ? 誰っ? と水宗は身を乗り出す。
「高円寺皆帆さんです」
ええっ!? と水宗は衝撃を受けていた。
「高円寺さん、社長と名字違いますよっ?」
「前の奥さんのお嬢さんなんですよ」
水宗はいきなり、窓の外のあのピンクのトラックを振り返り叫ぶ。
「そうだったのかっ。
どうりで、素敵なデザインだと思ったっ!」
「……いや、水宗さん、そのデザイン、嫌そうでしたよね」
「造園業でゾウとかナイスなセンスですよっ」
そうですかね……?
「まあ、いいんじゃないか?」
と何故かちょっと、ほくそ笑んで将生が言う。
「なんだかわからないが、恋でもはじまりそうだから」
まあ、別の事件の取り調べもはじまりそうだが……と付け足してはいたが。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マーガレット・ラストサマー ~ある人形作家の記憶~
とちのとき
ミステリー
人形工房を営む姉弟。二人には秘密があった。それは、人形が持つ記憶を読む能力と、人形に人間の記憶を移し与える能力を持っている事。
二人が暮らす街には凄惨な過去があった。人形殺人と呼ばれる連続殺人事件・・・・。被害にあった家はそこに住む全員が殺され、現場には凶器を持たされた人形だけが残されるという未解決事件。
二人が過去に向き合った時、再びこの街で誰かの血が流れる。
【作者より】
ノベルアップ+でも投稿していた作品です。アルファポリスでは一部加筆修正など施しアップします。最後まで楽しんで頂けたら幸いです。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
憑代の柩
菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」
教会での爆破事件に巻き込まれ。
目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。
「何もかもお前のせいだ」
そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。
周りは怪しい人間と霊ばかり――。
ホラー&ミステリー
アナグラム
七海美桜
ミステリー
26歳で警視になった一条櫻子は、大阪の曽根崎警察署に新たに設立された「特別心理犯罪課」の課長として警視庁から転属してくる。彼女の目的は、関西に秘かに収監されている犯罪者「桐生蒼馬」に会う為だった。櫻子と蒼馬に隠された秘密、彼の助言により難解な事件を解決する。櫻子を助ける蒼馬の狙いとは?
※この作品はフィクションであり、登場する地名や団体や組織、全て事実とは異なる事をご理解よろしくお願いします。また、犯罪の内容がショッキングな場合があります。セルフレイティングに気を付けて下さい。
イラスト:カリカリ様
背景:由羅様(pixiv)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~
菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。
俺は静かに本を読みたいんだっ。
此処は職場かっ?
なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」
監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。
5話目です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる