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凶器を探しています
逃げるんだっ!
しおりを挟む「結構問題のあるおじいさんらしいんですよ。
その傷害事件の被害者のおじいさん。
気が短いらしくて、親族ともご近所さんともトラブルがあって。
背後からなにか硬い物で殴りつけられて意識不明のようなんですが」
「背後から硬い物で……」
琳は手許にあるビニール袋入りのスコップを見た。
「なんでそれ見るんですか、雨宮さん……」
それ、うちのスコップですよねっ、と水宗が悲鳴を上げる。
「いえいえ、なにかもっと大きな物みたいですよ」
佐久間の言葉に琳の目が庭を見た。
「いやいやいやっ。
なに見てるんですかっ。
僕が持ってきた鉢ですよね、それっ」
水宗は琳の視線を追い、ササヤキグサの鉢を見ているのに気づいたようだった。
「此処に居たら、犯人にされそうな気がしてきました……」
何故ですか、水宗さん。
いつものお礼にお力になろうとしているだけなのに、と琳は思う。
そのとき、学生のような顔をしたスーツ姿の男が駆け込んできた。
「佐久間さんっ、また此処、来てましたねっ」
佐久間がギクリとした顔をする。
佐久間と基本、ペアで動いている刑事の中本匡だ。
「あれ? 中本くん、久しぶりに見たねえ」
「可愛い子ねえ。
誰、中本くんって」
と近くの席のおばあちゃんたちが話し出す。
「知らないの? 佐久間さんの相方よ」
いや、芸人ではない……。
「佐久間さんの相方、宝生さんじゃないの?」
あの人、監察医ですよ……?
「すみません、雨宮さん。
いつも佐久間さんがご迷惑を」
中本がペコペコ頭を下げてくれる。
「いえいえ。
こちらこそ、いつも佐久間さんにはお世話になって」
「なにしに来たんだよ。
すぐ戻るよ。
雨宮さんと水宗さんにご報告に来ただけだよ。
帰れよ、中本。
此処に居たら、雨宮さんにすぐ犯人にされるぞ」
またまた、佐久間さんたら、と琳は苦笑いする。
「いや、それが水宗さんを違うルートで発見したのでご報告をと思いまして」
いきなり中本にそう言われ、水宗は、僕、此処に居るけどっ、という顔をしたが、今の話ではなかった。
水宗が警察に言ったのとは違う道の防犯カメラに、彼のピンクのトラックが映っていたのだと言う。
「別の事件を調べてた連中が気がついたんですよ。
特徴的なトラックですからね。
水宗さん、何故、虚偽の発言を?」
中本に突然、問い詰められ、水宗は訳がわからず困っているようだった。
「あの、中本さん、何処で見つかったんですか? その映像」
と水宗の代わりに琳が訊く。
「朝十時くらいのものなんですけど。
となり町のコンビニ駐車場の防犯カメラで」
あっ、と水宗は声を上げた。
「そういえば、珈琲買いに寄りました」
だが、
「おかしいですね……」
とスマホで地図を確認しながら中本は言う。
「あなたがもともと走っていた道にもコンビニあるんですよ。
何故、わざわざ表通りに出て、コンビニに?」
「あのコンビニの珈琲のクーポン持ってたからですよ」
水宗はホッとしたように言ったが、
「……そうなんですか?」
とまだ中本は疑わしげだ。
「警察に報告するのに、そんな単純なミスするでしょうか?
ちょっとでも間違ってたら疑われるってわかってるのに。
なにか……どうしても誤魔化しておきたいことがあるとか?」
すみません、すみません、と佐久間が水宗に謝る。
「こいつ、なんでもかんでも闇雲に怪しがるタチでして」
「でも、なんでも怪しむの、推理の基本ですよね。
当然だと思っていることも疑ってかかった方が……」
中本の肩を持ちかけた琳だったが、ふと気づいて中本を見る。
「そういえば、中本さん、此処に来るの珍しいですよね」
なんですか、突然、という顔を中本はした。
「なんで今日に限って、うちに?
佐久間さんがうち入り浸ってるの、いつものことなのに」
「は?」
「……主役のはずの刑事が犯人って、ドラマや小説ではよくありますよね」
琳がそう言った瞬間、
「逃げるんだ、中本っ」
と佐久間が後輩をかばうように琳との間に入り、店の入り口に向かって中本の背を突き飛ばした。
「早く行けっ。
此処に居ると、犯人にされるぞっ!」
俺のことはいいから行けっ、とばかりに佐久間は中本を追い返した。
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