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箱から覗いてみました……
いや、簡単に信じるな
しおりを挟む部屋に来るってことは、そういうことでしょなんて。
大崎さんも、ああいうとこ、男の人だよなあ、とあまりは思う。
情緒ないんだから~と思いながら、家の鍵を開けていた。
そのとき、後ろで声がした。
「あ、やっぱりそうだ。
こんばんは」
考え事をしていたので、あまりは別の人に話しているのかなあ、と思って、特に返事はしなかった。
すると、
「ねえねえ」
という声とともに、ぽん、と肩を叩かれる。
まるきり気を抜いていたので、ひーっ、と思い、ちょうど手にしていた防犯ブザーの紐を引き抜きそうになった。
「わー、やめてやめてーっ」
と叫ばれ、手をつかまれる。
男の手だ。
余計、叫びそうになってしまう。
さっき、大崎に背中に指を突っ込まれて、ぞくりとしたのも、その指の感じから、男であることを察知したからだったのだろう。
「あまりっ。
どうしたっ」
と海里の声がする。
あまりが振り返ると、海里がすごい形相でこちらに駆けてくるところだった。
「うわーっ。
待って、違う違うっ」
殴られそうな気配に男は叫ぶ。
さっと胸許に手をやった男に、殺られるっ! と思ってしまったが、男の方が、
「ああっ。
ないっ!」
と悲鳴をあげていた。
「なんだ、お前っ。
警察を呼ぶぞっ」
と男の胸ぐらをつかんだ海里の腕をあまりはつかむ。
「ちっ、違うの違うのっ。
びっくりしただけなのっ。
その人は――」
お隣さん、と言おうとしたとき、男が反撃の意思がないのを示すようにか両手を上げて言ってきた。
「警察の者です」
「……は?」
海里と二人、間抜けな声を上げていた。
「け、警察の方だったんですか」
あまりは苦笑いして、今、防犯ブザーを鳴らそうとした事実を誤摩化そうとした。
「いや待て、あまり」
と警戒を解こうとするあまりの肩をつかみ、海里が言ってくる。
「わからんぞ。
本人がそう名乗っているだけじゃないか。
何処にそんな証拠がある」
と言うと男は、いやいやいや、と言い、
「今、警察手帳をと思ったんですけど、勤務中じゃないので、持ってなかったんですよ」
と言う。
「じゃあ、却下だ。
警察手帳を持って出直してこい」
と逆さに持ったワインの瓶を男の鼻先に突きつけ、海里は言う。
どっちが警察だ、という融通のきかなさだ。
そして、なんのためにこの人、出直してくる必要があるんだ、と思っていたが。
今まで挨拶するだけだったのに、声をかけてきたのには、訳があったようだった。
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