56 / 89
箱から出てこない箱入り娘
見合いする前に見合い相手に振られたと聞いたが、元気か
しおりを挟む日曜日、海里もなんとなく実家に帰ってみていた。
あまりとの見合いの話はなかったことになっているはずだが、あのあと、父親とあまりの父は会って話したりしているのだろうかとちょっと気になったからだ。
すると、広い玄関ロビーの湾曲している階段の下に何処かで見た男が立っていた。
「海里、元気か?」
父の年の離れた弟、遥真だ。
一応、叔父ではあるが、自分との方が年が近いし、顔も似ている。
実は母親が、この叔父と浮気して自分が出来たんじゃないかと思うくらい似ている。
遥真は、笑いながら、
「見合いする前に見合い相手に振られたと聞いたが、元気か」
と余計な言葉を付け足してきた。
誰だ、余計なことをしゃべりやがったのは、と思いながら、
「振られてない」
と言い返す。
「へー、そうなのか」
軽い調子で訊いてくるので、つい、あまりのことを少し話してしまった。
「ほほう。
彼女はお前が嫌で家を飛び出して、カフェの女給さんを」
「お前はなに時代の人間だ……」
女給ってな、と思っていると、
「写真はあるのか、見せてみろ」
と言ってくる。
迷ったが、断ったら、父親に余計なことをペラペラしゃべりそうだな、と思って、スマホにあった見合い写真を見せた。
「ほうほう。
可愛いじゃないか。
これで女給さんか」
カフェの店員だっつーのに、と思っていると、
「モテるだろうなあ」
とまだ写真を見ながら、遥真は言ってくる。
「……そうなのか?」
「だって、可愛いじゃないか。
近寄りがたいほど綺麗とかいうわけでもないし」
てめーと思っていると、
「カフェの店員とか、話しかけやすいだろ。
いろいろ切っ掛けもあるし」
と言ってくるので、外に出そうとしていたあの箱入り娘をまた箱につめたくなった。
「で?」
と遥真は笑いながら、スマホを返してくる。
「結局、この子と付き合ってるわけか?」
さあな、と曖昧に誤摩化したはずなのに、
「そうなのかー。
もうそういう関係なのかー」
と言ってくる。
何故、わかる……。
年の功か? と思っていると、
「へー。
顔に似合わず、アバズレだなあ。
結婚前に」
と言ってきた。
アバズレ……。
今でもそんな考えの人が居たのか、と思いながら、
「そうじゃない。
俺が無理矢理――」
と言いかけると、
「お前、強姦魔か」
と言ってくる。
……お前はあまりか、と思っていると、
「でも、面白そうだから、今度見に行ってやるよ」
と遥真は言い出した。
なにっ? と思っている間に、勝手にあまりの写真を自分のスマホに転送しようとしている。
「駄目だっつってんだろっ」
二人で揉めていると、呑気なことに、まだ寝ていたのか、母親が階段に、けだるい感じで現れた。
上から自分たちを見下ろし、
「遥真さん、いらっしゃい。
あら、海里、なんで居るの?」
と言ってくる。
おい……。
息子の方の扱いはずいぶん悪いな、と思っていると、母親は階段を下りてきながら、
「それにしても相変わらず、仲がいいわね。
さすが……」
と言いかけ、何処かに行ってしまう。
さすがなんなんですか、お母さんっ。
さすが実の親子ね、じゃないだろうな、と怯えながら、行ってしまう母親を見送っていると、遥真も同じように見送っていた。
ずっと母親の後ろ姿を見ている彼に、
ちょっと待て。
どういう意味の視線だ、それはっ、と問いかけそうになったとき、遥真がこちらを振り向いた。
「よしっ。
近々、そのお前の彼女とやらが居るカフェに行ってみようっ」
と言い出す。
こっちはこっちで、ちょっと待てーっ!
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
ケダモノ、148円ナリ
菱沼あゆ
恋愛
ケダモノを148円で買いました――。
「結婚するんだ」
大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、
「私っ、この方と結婚するんですっ!」
と言ってしまう。
ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。
貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる