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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密
私の部屋は何処ですか?
しおりを挟むおお。
なんかすごい部屋だ。
部屋の中も基本、和風な造りで、隅に藤色の落ち着いた柄の着物がかけてあった。
部屋のインテリアのひとつらしい。
素敵だが、物陰からなにか出てきそうで、夜は怖いな、と思いながら眺める。
一通り部屋の中を案内してくれた仲居さんは、
「では、ご夕食は7時半から、榊の間になりますので」
とその榊の間と大浴場の場所を説明して、去っていってしまった。
帰って行く仲居にさんに、ありがとうございます、と頭を下げたあとで、気がついた。
「あのー、ところで、私の部屋は何処ですか?」
すると、無言で床を指差される。
「……下の階?」
「莫迦か。
いきなり、二つも三つも部屋が取れるか。
だいたい、この部屋、幾らすると思ってるんだ」
「はは、払います、払います、自分で。
なので、別の部屋を……」
と財布を開けたが、急に出かけたので、三千六円しか入っていなかった。
我ながら、この金額は社会人としてどうだろう、と思いながら、
「カ、カードで」
と震える手で海里にカードを差し出す。
海里はチラとそれを見たが、
「使えないそうだぞ」
と素っ気なく言ってくる。
いやいやいやいや。
確かに老舗の店とかだと、たまにそういうこともありますけどっ。
此処、中、相当近代的ですけどっ?
「別にいいじゃないか。
此処はベッドじゃなくて、布団みたいだぞ」
見ると、少し台が高くなっているところが、御所か? というような御簾で囲まれており、今は巻き上げられているそこに、ふかふかの布団が並べて敷いてあった。
「おまえが気になるのなら、俺はあっちに布団敷いて寝るから」
と海里は障子の向こうの和室を見て言ってくる。
「えっ。
じゃあ、私がそちらに行きますから、海里さんは此処で」
と言ってしまい、これだと、なんだかもうこの部屋に泊まることを承諾したようだ、と思っていると、案の定、海里は、
「夕食まで風呂にでも入るか。
大浴場に行くか?
部屋に露天もあるが」
と話を進めてくる。
ああでも素敵だ、あの露天、とガラスの向こうに見える白い陶器の湯船を見た。
でも、中から見えそうだしな、と迷っていると、海里が、
「じゃあ、お前、そこに入れ。
俺はその間、大浴場に行ってくるから」
と行ってきた。
「ええっ、そんな悪いですっ」
「いや、いい。
夕食に間に合うように、三十分くらいで戻る」
「いえ、私、先に大浴場に行きますから。
海里さん、此処の露天にどうぞ」
「いや、いい。
俺は大浴場に入りたいんだ。
さっき見たら、結構よかった」
「そ、そうなんですか?」
と言いながら、海里の広げたパンフレットを見ていたあまりは、
「ほんとだ。
素敵ですね。
私も入りたいかも」
いいな、このワイン風呂とか。
「……いいですね。
入りたい」
あ、総檜の風呂もある。
「……入りたいな」
とぼそりと言うと、
「いや……じゃあ、入れよ。
誰もあっちに入るなとか言ってないから」
と言われた。
「じゃあ、一緒に行くか。
お前迷いそうだし」
はいっ、と言って、あ、鞄は置いていってもいいんだよね。
途中お土産物見るかもしれないし、お金少し持っていって、財布は金庫に入れた方がいいかな? とキョロキョロ見回していると、海里が、
「……着ないのか?」
と言ってきた。
は? なにをですか? と顔を上げる。
「浴衣に着替えた方が脱ぎ着が楽なんじゃないのか?」
「あー、そうですね。
でも、別にいいような」
とは言いかけたが、黒い籠の中に入れてあった浴衣は、最近よくある、選べる色浴衣とかではなかったが、結構可愛かったので、
「あ、やっぱり着替えます。
まだ時間大丈夫ですか?」
と訊くと、
「そのくらい大丈夫だ」
と言われた。
結構ギリギリな時間に飛び込みで入ったので、到着してから夕食までの時間が短く、ちょっと心配だったのだ。
「あっ、じゃあ、着替えてきますね」
とその浴衣の籠を手に、あまりは小さな和室に入っていった。
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