18 / 89
派遣秘書のとんでもない日常
イケメンを愛でながら呑みたい
しおりを挟む二時前になり、あまりはもう一度、海里にお茶を出してから帰ることになった。
「これからカフェ? 偉いわね」
と秋月に言われる。
「カフェ何時まで?」
「五時半までです」
「じゃあ、今日、呑みに行かない?
貴女の歓迎会やりましょうよ。
ねえ」
と秋月が見ると、桜田が、コクコクと頷く。
「室長、どうされますか?」
室長? ともう一度秋月が呼びかけると、室長は、
「いやあ、私は遠慮しますよ。
家内が夕食作って待ってるので」
と言った。
……喋った、と思ってしまった。
いや、黙々と仕事はされているのだが、置物のようなおじいさんだと思っていたから。
あとで聞いたことだが、実は、室長は昔は、社長秘書をされていて。
もう退職していたのを海里が支社長になるときの手助けとして、わざわざ社長に呼び戻されたのだということだった。
そのとき、ちょうど外を通りかかった寺坂を秋月が手招きする。
はあ、と寺坂がやってきた。
「今日、南条さんの都合が良ければ、歓迎会やろうと思うんだけど」
いや、私の都合確認せずに、もう話進んでますよねーと思っていると、
「貴方も来るわよね」
と寺坂は言われていた。
寺坂さんも妻が、とか言って断るのかな、と思っていると、
「はあ、そうですね。
まあ、時間によっては」
というような曖昧なことを言ってきた。
そういえば、指輪もしてないし、独身なのかな? と思っていると、秋月が、
「来るわよね?」
と繰り返す。
はあ、とまた、仕事のときからは想像もつかない、曖昧な返事を寺坂も繰り返す。
なんか、此処の力関係見えたな、と思って、眺めていた。
「ただいま、帰りま……」
カフェに戻ったあまりは、笑顔でそう言い終わらないうちに、
「はい、これ、テラス席の木の下のとこです」
と沙耶にトレーを渡された。
ま、まだ着替えてもないんですが??? と思いながらも、そのまま運ぶ。
「忙しそうね」
戻ってきて、カウンターで言うと、沙耶が、
「おやつどきですからね」
と言う。
もうすぐ三時だった。
「さっさと着替えてきてくださいよ」
と言われ、はーい、と引っ込もうとすると、沙耶が、
「あまりさん」
と呼んできた。
はい? と振り向くと、
「格好だけは、いい感じにキャリアウーマンです」
と言って、グッと親指を立ててきた。
いや……それ、褒めてんの? と思いながらも、ありがとう、と言って、奥へと入る。
すると、備品を取って戻ってこようとしていた成田と出会った。
「お疲れさまですっ」
「あれからどうだった?」
「あのあと、また支社長に珈琲持ってったんですけど。
美味いの不味いの、うるさかったです」
と言うと、笑っていた。
「あ、成田さん。
今日、秘書室の方が、歓迎会やってくださるそうなんですけど。
ぜひ、成田さんもって言ってました」
「え? なんで?」
「……手伝いに来られたからじゃないんですか?」
そう曖昧に笑って誤摩化したが、本当のところ、秋月が、
『イケメンを愛でながら呑みたい』
と言い出したからだ。
寺坂さんではご不満なのだろうか。
ちょいと凶悪なご面相ではあるし、ゴツいが、イケメンには違いない。
『じゃあ、支社長を呼んだらいいじゃないですか』
ちょっと偉そげなところが鼻につくが、あれほどのイケメンはなかなか見ないが、と思って言うと、みんな、フルフルと首を振る。
緊張して困るから、と言うのだ。
『支社長というのも寂しい職業ですねえ。
呑み会にも呼んでもらえないなんて』
と言って、
『いや、別に我々の呑み会に呼ばなかったからって寂しいとは思わないと思うけど。
っていうか、あんた、どっちサイドに立って言ってんの』
と言われてしまった。
21
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
ケダモノ、148円ナリ
菱沼あゆ
恋愛
ケダモノを148円で買いました――。
「結婚するんだ」
大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、
「私っ、この方と結婚するんですっ!」
と言ってしまう。
ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。
貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる