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俺にも呪いがかかっている

なんで、先輩が王子なんだろうな

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 登校中、前を歩く廣也に電話がかかってきて、朝霞がぼんやりそちらを見ていると、佐野村が言ってきた。

「なんで、先輩が王子なんだろうな」

「え?」

「なんで俺じゃなくて、先輩の夢を見たんだろうな、お前は」

 俺の方が近くにいたのに、と言ったあとで、佐野村は少し笑って言う。

「近くにいすぎたってことかな。
 一回、転校して戻ってこようか。

 そうだ。
 ちょっと親父に転勤してくれるよう頼んでみよう」

 ……いや、あなたのお父さん、市役所の職員では。

「まあ、俺もお前が先輩が好きとか言いださなかったら。

 お前のことを意識しないまま、卒業してたかな。

 人にとられたくないと思って、ようやくお前が大事なんだと気がついたよ」

 ……佐野村。

「だが、お前も今は、遠すぎる先輩に夢を見ているだけだ、きっと。

 先輩ともずっと一緒にいて、神秘性もなくなり、憧れの存在でなくなったら。

 俺の方がよかったかな、と思うかもしれないぞ」

「――というセリフを俺の目の前で言うお前の神経がすごいな」
と佐野村の隣につり革を持って立つ十文字が言った。

 話しているうちに電車に乗り、十文字とも合流していたのだ。

 そう言われても、佐野村は、めげずに、

「朝霞。
 お前のことを諦めようと思ったけど、やっぱり、そう簡単には諦められそうにもないから。

 先輩に飽きたら、いつでも俺に言ってこい。

 俺はいつでもお前の側にいるから。

 ――って、格好よくない!? 俺っ」

 と自分で言ってしまうところがどうなんだろうな……、と思う頃、朝霞たちは学校に着いていた。




 昼休み、図書室に行こうとした十文字は、たまたま朝霞たちが群れているところに通りかかった。

 耳に入りやすい声なのか、朝霞の声だからなのか。

 みんなで話しているのに、朝霞の声だけがとりわけよく十文字の耳に響いた。

「いや、だからさ。
 ゲームぶっ通しでやってると、目が疲れるからさ。

 途中から、片目ずつ休めながらやってるのー」

 休憩しろ……と思う十文字の後ろで、他の女生徒たちが笑って言っている。

「朝霞姫って、器用なのねー」

 ……そうか?

 そういう問題か?

 朝霞はゲームオタクのマキがいつも側にいるせいか。

 近頃、平気でゲームの話をしているが、特に誰もそれで朝霞に幻滅したりはしていないようだった。

 入学してからの三ヶ月で、もう朝霞のイメージが出来上がってしまっているからというのもあるだろうし。

 やはり、みんな、朝霞のあの優等生なわりに、ぼんやりとした雰囲気を好ましく思っていただけだったのだろう。

 いつの間にか、佐野村も横に立って、朝霞を眺めていた。

 朝、朝霞を忘れられない宣言をしていたが。

 所詮は、朝霞の幼なじみ。

 朝霞と似たような感じにぼんやりしていて、こちらに向かって、ガツガツ突っかかってくるようなこともない。

 すると、そこに通りかかった山内が言ってくる。

「おっ、朝霞姫と仁美ちゃんとマキちゃんじゃないか。
 いいなあ、お前ら、しょっちゅう、あのキラキラ女子の集団と一緒にいるよなー」

 キラキラ女子!? と二人で振り返る。

 どの辺にキラキラ女子がいるんだ?

 ゲーオタ

 ゲーオタ

 なんかヤバそう

 の三点セットにしか見えないんだが……。

「だが、まあ、ゲームの話をしている朝霞はキラキラして可愛いから、そういう意味かな」
とボソリと呟いて、佐野村に、

「いや、俺はそこんところはキラキラ見えないんで。
 やっぱり、朝霞には先輩の方が合ってるかもですね……」
と言われてしまった。


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