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王子はまだ穴を掘っています
この世界に来て、……いよいよですねっ
しおりを挟む十文字が教室移動のために、三階に上がろうとしたとき、上から、佐野村が下りてきた。
何故か、振り返り振り返り、廊下の方を見ている。
そして、こちらに気づいて、うっ、という顔をした。
「……十文字先輩」
「なんだ。
なにかあったのか?」
「な、なんでもありません……」
と佐野村にしては、弱々しく言って、逃げていった。
「お前、佐野村と友だちだったの?」
と一緒に歩いていたクラスメイトの山内が言ってくる。
「あいつ、女子に人気あるよなー。
隠れマッチョっぽいし。
ってか、朝霞姫と幼なじみらしいな」
うらやましい、と言う山内に、……なにがだ、と十文字は思っていた。
あの一緒にいると振り回されそうな女と幼ななじみだってことは、単に、ずっとあいつに振り回されてきたってことじゃないのか、と思ったからだ。
だが、山内はそこで気づいたように、あっ、と笑って言ってきた。
「そうだよなー。
どのみち、朝霞姫はお前だもんなー。
まあ、佐野村より、お前の方が人気あるしな。
どうせ、朝霞姫なんて、雲の上の人なんだし。
お前、さくっとくっついて、他の女子を絶望させてやってくれよ。
こっちにひとりふたり、回って来るかもしれんから」
と言って、山内は笑っている。
……雲の上の人?
あれがか?
まあ、頭の中身が雲の上辺りに浮いてそうだが、と浮世離れした朝霞の言動を思い出しながら思う。
ていうか、あんな訳のわからない女と、どうやったら、さくっとくっつけるんだ。
いや……別に俺が朝霞を好きとか、そういうわけではないんだが。
――それにしても、佐野村、なにを見てたんだろうな?
そういぶかしく思いながら、十文字は渡り廊下からさっきの校舎を振り返っていた。
その夜も、朝霞は王子を見ながら、洞穴にいた。
だが、今日は一味違うぞ、と思いながら、朝霞はポケットからクッキーを取り出す。
「王子、お茶にしましょうよ」
と穴を掘っている王子の背に向かい、呼びかけた。
昨日は、騎士団長の方が女子力高かったからな、と思って、おやつを用意してきたのだ。
二人で、洞穴にしゃがんで休憩する。
さくさくの動物クッキーを食べながら、朝霞は天井を見上げていった。
「宝石どんな感じに出てくるんですかねー」
「さあな……」
と言う王子は口数が少ない。
「天井からもキラキラ出て来たらいいですね。
こう、カンテラの灯りを当てたら、指輪が光ったり、ネックレスが埋まってたり」
「……それだと、すでに加工されてるじゃないか」
と呟いたあとで、王子は、
「いや、まあ、そういう可能性もあるな」
と言い出した。
「実は、この上が王の墓で、王と一緒に埋めた宝石が出てくるという話なのかも」
「やめてください、王子~っ」
ひい、と朝霞は出口の方に身を引く。
「王の棺も一緒に落ちてきそうじゃないですかっ」
と言ったとき、
「……朝霞」
と王子が迷うような顔つきで呼びかけてきた。
「お前、城に行って、女王に会ってみるか?」
「は?」
「お前もよく知っているように、俺は女王に反発している。
だが、あんな人でも、親は親だ。
必ずしも反発したい、というわけではない。
俺があの人を色眼鏡で見ているだけなのかも」
朝霞、と王子に手を取られ、棺が落ちてくるっ、と思ったときよりも朝霞は逃げ腰になる。
緊張でだが。
「城に行って、うちの親に会ってみてくれ。
そして、女王を見てのお前の見解を聞かせてくれ」
い、いや、そんな大役っ、と朝霞は思ったのだが。
「それには、その格好では駄目だな。
まず、ドレスに着替えて、もう少し身を飾らなければ、女王に謁見はできないだろう」
「いきますっ」
と逃げ腰だったはずなのに、王子の言葉が終わらないうちに、即答し、王子の手を握りしめていた。
「そ、そうか……」
と今度は王子の方が引いてしまう。
いや……、単にドレスを着たかっただけなんですけどね、と朝霞は思っていた。
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