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第五章 再会編
エルザとの再会
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バチン!と何かが弾けるような音がしたと思ったら、突然、毛むくじゃらの男が吹っ飛ばされ、木の幹に打ちつけられた。
「え…?」
リスティーナは何が起こったのか分からず、呆然とした。
肩に触れるが傷一つない。その時、リスティーナの肩から緑色の魔法陣が表れ、消滅した。
この魔法陣は…!リスティーナはこの魔法陣の色に見覚えがあった。エルザの魔法だ。
もしかして、これ…、術者と対象者のダメージを転換する魔法?
確か、この術式を魔法書の本で見たことがある。
これは、対象者が受けた傷を術者が代わりに引き受けるという身代わりの魔法陣だ。
そんな…!だとしたら、今頃、エルザが…!
そうしている間にも、男が唸り声を上げながら、起き上がる。
リスティーナは慌てて立ち上がると、そのまま駆け出した。
落ちた魔石を拾う余裕はなかった。
とにかく、今は逃げないと…!もう、手持ちの魔石は三つしかない。これで、何とか乗り切って…!
リスティーナの背後から迫ってくる音が聞こえる。追いつかれる…!リスティーナは魔石を握り締めた。
『土壁!』
背後からドゴッ!と何かが割れるような音がした。
思わず振り返れば、地面からいきなり、巨大な土の壁が現れた。
この、土魔法は…!リスティーナは思わず辺りを見回した。
「エルザ!?」
「ティナ様!」
懐かしい声がした。反射的に見上げると、金髪に染めた長い髪を靡かせた美少女が魔法で空を飛んでいた。間違いない。エルザだ。
「エルザ!」
リスティーナはぱあっと顔を輝かせた。
エルザはリスティーナの目の前まで飛んでいくと、スタッと隙のない身のこなしで着地する。
「ティナ様!ご無事ですか!?」
「うん!私は大丈夫!あの、それより、さっき…、!」
リスティーナはさっきの魔法陣のことを聞こうとしたが、エルザの肩を見て、息を呑んだ。
エルザの肩口が血で汚れている。すごい血だ。服の上からでも分かる位の血の量だった。
「エルザ!やっぱり、怪我しているのね!見せて!」
「!てぃ、ティナ様…。私の事は…、」
「いいから!」
リスティーナはエルザの肩口の服を切り裂き、傷口を確認する。
ひどい傷…!噛み跡から血が流れている。
エルザはこれだけの傷を負っていたのに手当てすることなく、真っ先に私の所に来てくれたんだ。
エルザ…!リスティーナはこみ上げる感情をグッと押さえつけ、すぐに応急処置をした。
持っていたハンカチを切り裂き、それを止血代わりにして、傷口に巻きつけた。
良かった。とりあえず、血は止まった。
「ティナ様!ティナ様のハンカチが汚れてしまいます!」
「そんなのどうでもいい!さっきの攻撃、エルザが身代わりに受けてくれたんでしょう?ごめんね。痛かったでしょう?」
「なっ…、ティナ様が謝る必要はありません!私が勝手にしたことです。」
「エルザ…。ありがとう…。」
リスティーナが感謝を込めて、お礼を言うと、エルザは頬を染めた。
「い、いいえ!そんな…!こんな事でお役に立てるのなら、幾らでも…!ティナ様の為なら、手足の一本や二本失っても惜しくありません!」
「何言ってるの!駄目よ!そんなの…!お願いだから、そんな悲しいことは言わないで。エルザは女の子なんだから、身体を大事にして。」
エルザの言葉にリスティーナは慌てて、止めた。
エルザなら、本当にやりかねない。エルザはいつも自分よりも私の為に無茶ばかりするから…。
リスティーナはエルザの手を握り締めて、身体を大事にして欲しいと懇願した。
リスティーナに手を握られたエルザは興奮したように瞳を輝かせ、頷いた。
「はい!ティナ様!…ああ。ティナ様のぬくもり…。三か月ぶりのこの感触…!」
エルザはリスティーナの握った手にスリスリ、と頬を摺り寄せた。
あっ…、しまった。つい手を握ってしまったけど、この手、さっき血の水たまりで汚れたんだった…。
どうしよう…!今更、離してとも言えないし…。
…後でエルザに今日は顔を念入りに洗うように言っておこう。
「ティナ様。咄嗟に魔法を使ってしまいましたが、よかったのでしょうか?」
「ええ。助かったわ。ありがとう。エルザ。」
リスティーナの言葉にエルザは嬉しそうに口元を緩ませた。
「これ位でしたら、お安い御用です!あの、それより、こいつは一体、何者なんです?動物なんですか?人間のようにも見えますけど…。」
「私もよく分からないのだけれど…。多分、人間なんだと思う。この人…、ルーファス様の弟を殺した犯人かもしれないの。」
「ルーファス殿下の…?」
「とにかく、早くここを離れないと…。エルザ、歩けそう?」
早く屋敷に戻って、エルザの傷の手当てをしないと…。
あの獣のような男が襲ってこない内に…。
「ええ。大丈夫で…、」
そこまで言いかけて、エルザはハッ!と焦った表情で土の壁に視線を向ける。微かに土の壁に亀裂が走っていた。
「ティナ様!」
エルザがリスティーナを突き飛ばした。それと同時にバキバキ!と音がして、壁が破壊された。
突き飛ばされたリスティーナは地面を転がる。
『風刃!』
エルザ…!リスティーナは慌てて上体を起こす。
見れば、土の壁を突き破った毛むくじゃらの男が今にもエルザに襲い掛かろうとしていた。
が、エルザは風魔法で撃退しようとしている。男が迫るより先にエルザの魔法の方が早かった。
風魔法は的確に当たり、男の手足を切り裂いていくが、男は攻撃が当たっても倒れることも足を止める事もなく、そのままエルザに突進していく。
「なっ…!?」
予想外の動きにエルザも面食らった。そのまま接近を許してしまい、男の爪がエルザを引き裂いた。
「あうっ…!」
「エルザ!」
鮮血が辺りに飛び散った。肩から胸を切り裂かれ、エルザは地面に倒れ込んだ。
男が再度、爪を振り上げるのを見て、リスティーナは地面に落ちてた石を拾うと、それを投げつけた。
「エルザから離れて!」
ガツンッ!と石が男の頭に当たった。男の標的がリスティーナに変わった。
何か…、何か武器になりそうなものは…、リスティーナは咄嗟に地面に落ちていた木の枝を手に取った。
人間の腕の太さほどの大きな木の枝…。これなら…!
男がリスティーナに襲い掛かろうとするが…、その足をエルザが掴んだ。
「…ティ、ナ様に手を出す、なっ…!」
男はエルザの頭を掴むと、そのまま地面に強打した。
「カハッ…!」
「エルザ!止めて!…止めなさい!」
リスティーナがそう叫んだ瞬間、カッと身体が熱くなり、ビリビリと空気が震えるような音がした。
風も吹いていないのに、ブワッと髪が舞い上がる。
エルザの頭を掴んでいた毛むくじゃらの男はピクッと動きを止めた。
頭を打った衝撃で意識が朦朧としながらもエルザはリスティーナに視線を向ける。
揺れる視界の中でエルザはリスティーナの瞳の色が桃色に変わっているのを見た。
ティナ…様…。
一瞬、男の動きが止まった。
リスティーナは走って木の枝を振り上げると、思いっきり男に向かって振り下ろした。
が、動きが止まっていた筈の男はグルン、とありえない角度で首を曲げて、木の枝に噛みつくと、そのまま木の枝を粉々に粉砕してしまう。
リスティーナは空いていた片手で魔石を投げつけた。木の枝の攻撃はフェイントでしかない。こっちが本命だ。
割れた緑の魔石から植物の蔓のようなものが飛び出し、男を拘束する。
その隙にリスティーナは地面に放り投げられたエルザに駆け寄ると、
「エルザ!しっかりして!」
「ティ、ナ様…。逃げて…。」
「分かってる!さあ、逃げるのよ!」
リスティーナはエルザの肩に手を回し、立ち上がって歩き出す。
「だ、め、です…。ティナ様…。わたしを置いて…、逃げて…。」
「嫌よ!そんなことできない!」
が、エルザは怪我が酷いせいか自力で立って歩くことができなかった。
リスティーナは魔石を取り出して割った。
魔石の力で身体強化と加速魔法をかけ、エルザを背負って運ぶ。
が、途中で魔石の効果が切れてしまい、リスティーナは抱えきれずに地面に倒れ込んでしまう。
倒れ込んだ際に膝や手首に擦り傷を負うが、リスティーナはすぐに立ち上がると、エルザの脇の下に手を入れて、引きずるように進んでいく。
「お願い!エルザ!頑張って!」
早く…!早くしないと…!
「ティナ、様…。お願い、です…。ティナ様だけでも逃げて…。私は足手纏いですから…。」
「嫌よ!エルザが死ぬなんて嫌!」
見捨てる事なんてできない。だって、物心ついた頃から、ずっと一緒だった。
エルザがいたから、寂しくなんてなかった。辛い時も悲しい時も苦しい時もエルザが傍にいてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか…。
エルザには、何度も助けられた。私が男の人に襲われかけた時も魔法で撃退してくれた。
私に魔力を貸してくれた。私にたくさんの事を教えてくれた。エルザは私にとって、大切な家族のような存在だ。そんな子を見捨てるなんてできない!
「ティナ、様…。」
その時、蔓魔法の拘束を引きちぎったのだろう。あの男が獣のような唸り声を上げながら、追ってきた。
駄目…!リスティーナはエルザを庇うように覆いかぶさった。
ギュッと目を瞑る。死を覚悟したその時、リスティーナは脳裏にルーファスの姿が浮かんだ。
最後に…、ルーファス様に会いたかった…!
「ッ、ルーファス様!」
ザン!最後の一人を仕留め、ルーファスは剣についた血を払い、鞘に収めた。
辺りには黒ずくめのフードを被った男達の死体が転がっている。
複数の男の気配と殺気を感じてきてみれば、これだ。
全く…。次から次へと…。
予想はしていたが、まさか二日続けて、刺客を差し向けられるとはな…。
グイッと返り血を拭い、ルーファスは血で汚れた自分の身体を見下ろす。
早くリスティーナの所に戻りたいが…。その前に綺麗にしておかないとな…。
こんな姿で戻ったら、リスティーナを怖がらせてしまう。
洗浄魔法と乾燥魔法で血で汚れた身体を綺麗にしていく。
『ルーファス!大変!大変だよ!』
その時、闇の妖精達が焦った様子でルーファスの所にやって来た。
「どうした?そんなに慌てて…、」
ルーファスはあらかじめ妖精達にリスティーナの傍にいるように頼んでおいたのだ。
まさか…、ルーファスは嫌な予感がした。
『リスティーナが…!』
その後に続いた言葉にルーファスはすぐさま全速力で駆け出した。
「え…?」
リスティーナは何が起こったのか分からず、呆然とした。
肩に触れるが傷一つない。その時、リスティーナの肩から緑色の魔法陣が表れ、消滅した。
この魔法陣は…!リスティーナはこの魔法陣の色に見覚えがあった。エルザの魔法だ。
もしかして、これ…、術者と対象者のダメージを転換する魔法?
確か、この術式を魔法書の本で見たことがある。
これは、対象者が受けた傷を術者が代わりに引き受けるという身代わりの魔法陣だ。
そんな…!だとしたら、今頃、エルザが…!
そうしている間にも、男が唸り声を上げながら、起き上がる。
リスティーナは慌てて立ち上がると、そのまま駆け出した。
落ちた魔石を拾う余裕はなかった。
とにかく、今は逃げないと…!もう、手持ちの魔石は三つしかない。これで、何とか乗り切って…!
リスティーナの背後から迫ってくる音が聞こえる。追いつかれる…!リスティーナは魔石を握り締めた。
『土壁!』
背後からドゴッ!と何かが割れるような音がした。
思わず振り返れば、地面からいきなり、巨大な土の壁が現れた。
この、土魔法は…!リスティーナは思わず辺りを見回した。
「エルザ!?」
「ティナ様!」
懐かしい声がした。反射的に見上げると、金髪に染めた長い髪を靡かせた美少女が魔法で空を飛んでいた。間違いない。エルザだ。
「エルザ!」
リスティーナはぱあっと顔を輝かせた。
エルザはリスティーナの目の前まで飛んでいくと、スタッと隙のない身のこなしで着地する。
「ティナ様!ご無事ですか!?」
「うん!私は大丈夫!あの、それより、さっき…、!」
リスティーナはさっきの魔法陣のことを聞こうとしたが、エルザの肩を見て、息を呑んだ。
エルザの肩口が血で汚れている。すごい血だ。服の上からでも分かる位の血の量だった。
「エルザ!やっぱり、怪我しているのね!見せて!」
「!てぃ、ティナ様…。私の事は…、」
「いいから!」
リスティーナはエルザの肩口の服を切り裂き、傷口を確認する。
ひどい傷…!噛み跡から血が流れている。
エルザはこれだけの傷を負っていたのに手当てすることなく、真っ先に私の所に来てくれたんだ。
エルザ…!リスティーナはこみ上げる感情をグッと押さえつけ、すぐに応急処置をした。
持っていたハンカチを切り裂き、それを止血代わりにして、傷口に巻きつけた。
良かった。とりあえず、血は止まった。
「ティナ様!ティナ様のハンカチが汚れてしまいます!」
「そんなのどうでもいい!さっきの攻撃、エルザが身代わりに受けてくれたんでしょう?ごめんね。痛かったでしょう?」
「なっ…、ティナ様が謝る必要はありません!私が勝手にしたことです。」
「エルザ…。ありがとう…。」
リスティーナが感謝を込めて、お礼を言うと、エルザは頬を染めた。
「い、いいえ!そんな…!こんな事でお役に立てるのなら、幾らでも…!ティナ様の為なら、手足の一本や二本失っても惜しくありません!」
「何言ってるの!駄目よ!そんなの…!お願いだから、そんな悲しいことは言わないで。エルザは女の子なんだから、身体を大事にして。」
エルザの言葉にリスティーナは慌てて、止めた。
エルザなら、本当にやりかねない。エルザはいつも自分よりも私の為に無茶ばかりするから…。
リスティーナはエルザの手を握り締めて、身体を大事にして欲しいと懇願した。
リスティーナに手を握られたエルザは興奮したように瞳を輝かせ、頷いた。
「はい!ティナ様!…ああ。ティナ様のぬくもり…。三か月ぶりのこの感触…!」
エルザはリスティーナの握った手にスリスリ、と頬を摺り寄せた。
あっ…、しまった。つい手を握ってしまったけど、この手、さっき血の水たまりで汚れたんだった…。
どうしよう…!今更、離してとも言えないし…。
…後でエルザに今日は顔を念入りに洗うように言っておこう。
「ティナ様。咄嗟に魔法を使ってしまいましたが、よかったのでしょうか?」
「ええ。助かったわ。ありがとう。エルザ。」
リスティーナの言葉にエルザは嬉しそうに口元を緩ませた。
「これ位でしたら、お安い御用です!あの、それより、こいつは一体、何者なんです?動物なんですか?人間のようにも見えますけど…。」
「私もよく分からないのだけれど…。多分、人間なんだと思う。この人…、ルーファス様の弟を殺した犯人かもしれないの。」
「ルーファス殿下の…?」
「とにかく、早くここを離れないと…。エルザ、歩けそう?」
早く屋敷に戻って、エルザの傷の手当てをしないと…。
あの獣のような男が襲ってこない内に…。
「ええ。大丈夫で…、」
そこまで言いかけて、エルザはハッ!と焦った表情で土の壁に視線を向ける。微かに土の壁に亀裂が走っていた。
「ティナ様!」
エルザがリスティーナを突き飛ばした。それと同時にバキバキ!と音がして、壁が破壊された。
突き飛ばされたリスティーナは地面を転がる。
『風刃!』
エルザ…!リスティーナは慌てて上体を起こす。
見れば、土の壁を突き破った毛むくじゃらの男が今にもエルザに襲い掛かろうとしていた。
が、エルザは風魔法で撃退しようとしている。男が迫るより先にエルザの魔法の方が早かった。
風魔法は的確に当たり、男の手足を切り裂いていくが、男は攻撃が当たっても倒れることも足を止める事もなく、そのままエルザに突進していく。
「なっ…!?」
予想外の動きにエルザも面食らった。そのまま接近を許してしまい、男の爪がエルザを引き裂いた。
「あうっ…!」
「エルザ!」
鮮血が辺りに飛び散った。肩から胸を切り裂かれ、エルザは地面に倒れ込んだ。
男が再度、爪を振り上げるのを見て、リスティーナは地面に落ちてた石を拾うと、それを投げつけた。
「エルザから離れて!」
ガツンッ!と石が男の頭に当たった。男の標的がリスティーナに変わった。
何か…、何か武器になりそうなものは…、リスティーナは咄嗟に地面に落ちていた木の枝を手に取った。
人間の腕の太さほどの大きな木の枝…。これなら…!
男がリスティーナに襲い掛かろうとするが…、その足をエルザが掴んだ。
「…ティ、ナ様に手を出す、なっ…!」
男はエルザの頭を掴むと、そのまま地面に強打した。
「カハッ…!」
「エルザ!止めて!…止めなさい!」
リスティーナがそう叫んだ瞬間、カッと身体が熱くなり、ビリビリと空気が震えるような音がした。
風も吹いていないのに、ブワッと髪が舞い上がる。
エルザの頭を掴んでいた毛むくじゃらの男はピクッと動きを止めた。
頭を打った衝撃で意識が朦朧としながらもエルザはリスティーナに視線を向ける。
揺れる視界の中でエルザはリスティーナの瞳の色が桃色に変わっているのを見た。
ティナ…様…。
一瞬、男の動きが止まった。
リスティーナは走って木の枝を振り上げると、思いっきり男に向かって振り下ろした。
が、動きが止まっていた筈の男はグルン、とありえない角度で首を曲げて、木の枝に噛みつくと、そのまま木の枝を粉々に粉砕してしまう。
リスティーナは空いていた片手で魔石を投げつけた。木の枝の攻撃はフェイントでしかない。こっちが本命だ。
割れた緑の魔石から植物の蔓のようなものが飛び出し、男を拘束する。
その隙にリスティーナは地面に放り投げられたエルザに駆け寄ると、
「エルザ!しっかりして!」
「ティ、ナ様…。逃げて…。」
「分かってる!さあ、逃げるのよ!」
リスティーナはエルザの肩に手を回し、立ち上がって歩き出す。
「だ、め、です…。ティナ様…。わたしを置いて…、逃げて…。」
「嫌よ!そんなことできない!」
が、エルザは怪我が酷いせいか自力で立って歩くことができなかった。
リスティーナは魔石を取り出して割った。
魔石の力で身体強化と加速魔法をかけ、エルザを背負って運ぶ。
が、途中で魔石の効果が切れてしまい、リスティーナは抱えきれずに地面に倒れ込んでしまう。
倒れ込んだ際に膝や手首に擦り傷を負うが、リスティーナはすぐに立ち上がると、エルザの脇の下に手を入れて、引きずるように進んでいく。
「お願い!エルザ!頑張って!」
早く…!早くしないと…!
「ティナ、様…。お願い、です…。ティナ様だけでも逃げて…。私は足手纏いですから…。」
「嫌よ!エルザが死ぬなんて嫌!」
見捨てる事なんてできない。だって、物心ついた頃から、ずっと一緒だった。
エルザがいたから、寂しくなんてなかった。辛い時も悲しい時も苦しい時もエルザが傍にいてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか…。
エルザには、何度も助けられた。私が男の人に襲われかけた時も魔法で撃退してくれた。
私に魔力を貸してくれた。私にたくさんの事を教えてくれた。エルザは私にとって、大切な家族のような存在だ。そんな子を見捨てるなんてできない!
「ティナ、様…。」
その時、蔓魔法の拘束を引きちぎったのだろう。あの男が獣のような唸り声を上げながら、追ってきた。
駄目…!リスティーナはエルザを庇うように覆いかぶさった。
ギュッと目を瞑る。死を覚悟したその時、リスティーナは脳裏にルーファスの姿が浮かんだ。
最後に…、ルーファス様に会いたかった…!
「ッ、ルーファス様!」
ザン!最後の一人を仕留め、ルーファスは剣についた血を払い、鞘に収めた。
辺りには黒ずくめのフードを被った男達の死体が転がっている。
複数の男の気配と殺気を感じてきてみれば、これだ。
全く…。次から次へと…。
予想はしていたが、まさか二日続けて、刺客を差し向けられるとはな…。
グイッと返り血を拭い、ルーファスは血で汚れた自分の身体を見下ろす。
早くリスティーナの所に戻りたいが…。その前に綺麗にしておかないとな…。
こんな姿で戻ったら、リスティーナを怖がらせてしまう。
洗浄魔法と乾燥魔法で血で汚れた身体を綺麗にしていく。
『ルーファス!大変!大変だよ!』
その時、闇の妖精達が焦った様子でルーファスの所にやって来た。
「どうした?そんなに慌てて…、」
ルーファスはあらかじめ妖精達にリスティーナの傍にいるように頼んでおいたのだ。
まさか…、ルーファスは嫌な予感がした。
『リスティーナが…!』
その後に続いた言葉にルーファスはすぐさま全速力で駆け出した。
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