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第五章 再会編
初めての町
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エルザとアリアに報告し、通信を切った所でルーファスが回復薬のポーションを持ってきてくれた。
そのポーションのお蔭でリスティーナはすぐに回復することができた。
立って歩くことすらままならなかったのに、ポーションを飲んだらすぐに腰の痛みも消え、身体も軽くなった気がする。
凄い…!こんなにも効果があるポーションを作れてしまうだなんて…!
やっぱり、ルーファス様って凄いなあ。
これなら、町に行っても問題なさそう。
すっかり、本調子に戻ったリスティーナは予定通り、ルーファスと一緒に町に出かけることにした。
町に行くので服装も庶民が着るような服にする。
淡い水色の小花が散った白いワンピースに身を包み、髪は下ろして、一部だけ編み込みにしてもらった。
「リスティーナ様。とても素敵ですわ。」
「ありがとう。スザンヌ。」
こういう格好は久しぶり…。
メイネシア国にいた頃はよくエルザ達と城下町に行っていたけど、この国に来てからは町になんて行った事がない。リスティーナはワクワクした。
変な所はないかな?リスティーナは何度も鏡を見ては髪型や服装をチェックする。
ルーファス様と一緒に出かけるのだから、恥ずかしくないようにしたい。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「リスティーナ。支度はできたか?」
ルーファス様だ。リスティーナは扉を開けて、ルーファスを出迎えた。
「ルーファス様。すみません。お待たせしてしまって…、」
リスティーナは目の前に立っているルーファスの姿を見て、思わず目を瞠った。
ルーファスはシャツとズボンという庶民が着るような簡素な格好をしていた。
何より、一番目を引くのは、彼の髪と目の色だ。
黒髪が金髪に、オッドアイの目はエメラルドグリーンの色に変わっていた。
「ルーファス様…!髪と目の色が…。もしかして、それは、変身魔法ですか?」
「ああ。ルカに術式を教えてもらって、試しにやってみた。変か?」
「いいえ!ちっとも!ルーファス様の青と赤のオッドアイも綺麗ですけど、その髪と目の色もルーファス様によく似合っています。」
リスティーナはルーファスの髪と目の色を見て、ふと、思った。
金髪とエメラルドグリーンの目…。私と同じ色…。
リスティーナは何だか恥ずかしくなって、視線が泳いでしまう。
た、ただの偶然、かな?
そんな思いでチラッとルーファスを見上げると、彼と目が合った。
ルーファスはフッと口角を上げて笑うと、
「君と同じ色にしてみたんだ。」
「ッ!」
偶然じゃなかった。
ルーファス様はあえて、私と同じ色に…。
「あ、あの…、ルーファス様。」
「ん?」
「お願いがあるんです。わ、私にも変身魔法をかけてくれませんか?」
「ああ。勿論だ。一応はお忍びだから、髪と目の色は変えておいた方がいいだろう。色の希望はあるか?」
「黒い髪に…、青と赤い目がいいです…。」
「それは…、」
リスティーナの言葉にルーファスは少し動揺したように言葉に詰まった。
ルーファスは動揺したのを誤魔化すようにコホン、と咳払いすると
「わ、分かった。少し目を閉じててくれ。今、魔法をかけるから…。」
言われた通り、目を瞑る。
すると、フワッと温かい何かが身体を包み込んだ。
「よし。成功だ。もう、目を開けていいぞ。」
目を開けて、鏡で確認すれば、そこには黒髪に青と赤のオッドアイに変わった自分の姿が映っていた。
「わあ…!凄い!本当にオッドアイの目に変わってる…!」
リスティーナは思わず嬉しくて、はしゃいでしまう。
「ありがとうございます!ルーファス様!私、オッドアイに憧れていたので嬉しいです!」
「…そうか。」
リスティーナの言葉にルーファスは優しく目を細めた。
「そろそろ、行くか。」
ルーファスはリスティーナに手を差し出し、エスコートをしてくれた。
廊下を歩いている途中でルーファスはピタッと立ち止まると、
「言い忘れていたが…、その格好、君によく似合っているな。」
「!ありがとうございます…。る、ルーファス様も…、とても素敵です…。」
初めて見る彼の質素な服装は何だか新鮮ですごくドキドキする。
リスティーナはドキドキしながら、ルーファスと一緒に玄関ホールに向かった。
階段を降りて、玄関のホールまで行くと、既にそこにはルカ達が並んでいた。
ルカはリスティーナの髪と目の色を見て、口元を引き攣らせた。
「り、リスティーナ様…。その、髪と目の色…。」
「ルーファス様に変身魔法をかけてもらったの。」
リスティーナはえへへ、と嬉しそうに答えた。
「で、殿下…。リスティーナ様に自分の色を纏わせるなんて、さすがにやり過ぎでは?独占欲強い男は嫌われますよ!」
「何を誤解しているか知らないが、この色はリスティーナが希望したものだ。」
「え、そ、そうなんですか?」
リスティーナはコクコクと頷いた。
「しかし、殿下。オッドアイは流石に目立ちます。せめて、目の色は統一した方がいいかと…。」
「そうですわ。オッドアイは珍しいので人攫いに狙われやすいと聞きますし…。」
ロジャーとリリアナの意見にリスティーナはそうだったと思い直した。
ルーファス様と同じオッドアイになれるのは嬉しいけど、確かにこの姿で町に出るのはかなり目立ってしまう。それ位、オッドアイは珍しい。
残念だけど、色はどちらか一つにしないと…。
「じゃあ…、青にします。ルーファス様。右目の所を青色に変えてもらってもいいですか?」
迷った末にリスティーナは服装に合わせて、瞳の色は青を選んだ。
ルーファスにまた変身魔法をかけ直してもらう。
黒髪に青い目へと変化したリスティーナの姿にルカ達はおおっと感心したように声を上げた。
「す、すごい…!殿下、もう変身魔法を使えるようになったんですね!僕、この魔法習得するまでに三か月かかったのに…。」
魔法が得意なルカですら、変身魔法を習得するには時間がかかったんだ。
でも、ルーファス様は術式を教えてもらっただけですぐに習得してしまった。
凄い…。そういえば、ルーファス様は幼い頃から天才だ、神童だと呼ばれていたんだっけ。
剣術も強いのに、魔法も優れているなんて…。
リスティーナは感心した。剣術も魔法の才能もない自分とは大違いだ。
リスティーナは内心、落ち込んだ。
「リスティーナ?どうした?気分でも悪いのか?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「無理はするな。もし、疲れているのなら、別に今日でもなくても…、」
「いいえ!私、行きたいです!この国に来てから、まだ町に行ったことがないので昨日から凄く楽しみだったんです。」
「そうか?それなら、いいが…。」
ルーファスのエスコートでリスティーナは馬車に乗り込んだ。
本来なら、護衛をつけるのだが、折角なので二人っきりで町を楽しみたいというルーファスの希望により、今日は二人だけで出かける事にした。
リスティーナはスザンヌ達にお土産を買っていく事を約束し、出発した。
馬車で移動中、リスティーナはルーファスと会話を楽しんだ。
「それで、その後、アリアは形勢逆転して、対戦相手に勝ったんです。その時のアリアがすっごくかっこよくて…、」
エルザ達と町に行ったことがあると話したのをきっかけにリスティーナはルーファスにアリアとエルザとの思い出話を語った。
「へえ。かっこいい、か…。」
ルーファスがぼそり、と低い声で呟く。
ルーファス様。アリアに興味を持ってくれたのかな?もし、そうだとしたら、嬉しい。
「ルーファス様にもアリアを会わせてあげたいです。アリアはすっごく強い騎士なんですよ。それに、アリアは古代剣術の使い手なんです。」
「古代剣術だと?流派は何だ?」
「水の流派と呼ばれている蒼穹水蓮です。」
「蒼穹水蓮…。水を操る剣術か。ん?古代剣術を継承しているという事は…、まさかアリアは四騎士の称号持ちか?」
「あ…!そうでした。私、その事をルーファス様に伝えてなかったですね。そうなんです。アリアは四騎士の一人なんです。」
四騎士とは、メイネシア国の騎士団の中で最高位の騎士に授けられる称号だ。
四騎士に選ばれる者は古代剣術を習得するのが条件だった。
騎士団の中でもたった四人しか選ばれない中でアリアは四騎士の座を勝ち取った。
しかも、アリアは四騎士の中で唯一の女騎士でもある。
「アリアの婚約者のヒューバート様も四騎士の一人なんですよ。」
「ということは、そのヒューバートという男も古代剣術を使えるのか?」
「はい。ヒューバート様は雷王閃光の使い手なんです。」
「雷の流派か。それは、珍しいな。」
ルーファスは古代剣術に興味があるらしく、リスティーナの話を熱心に聞いてくれた。
アリアとヒューバート様はどうしているかな。
ヒューバート様がアリアを大好きでとても大切にしてくれているということは分かっているんだけど…、ヒューバート様は愛情表現が重すぎる所があるから、少し心配だ。
いつもヒューバート様と別れた後のアリアはぐったりとした様子で「やっと帰ってくれた…。」と呟いていたっけ…。
そんな事を思い出しながら、リスティーナはルーファスと会話を楽しんだ。
町に着くと、そこは活気で溢れていた。
お菓子屋、雑貨屋、本屋、花屋…。たくさんの店がある。
思わず、キョロキョロと辺りを見回してしまう。
その時、前方から歩いてきた人にぶつかりそうになってしまう。
すると、リスティーナの肩をルーファスが引き寄せた。
「あ、ありがとうございます。」
ルーファスは気にするなと言って、そっとリスティーナの手を握り、
「はぐれるといけないから、こうして、手は繋いでおこう。」
そのまま手を繋いで町を歩いていく。
ルーファスの手の感触にリスティーナはドキドキした。
握った手を意識していると、心臓が破裂しそうだったので店に集中することにした。
しばらく、二人で手を繋いで町を歩いていたが、ルーファスが本屋の前で立ち止まった。
「すまない。リスティーナ。少し、本屋に寄ってもいいか?」
「勿論です。」
本屋は意外と広く、たくさんの書物が本棚に納められていた。
「ルーファス様。私は、あっちの本棚にいますね。」
「ああ。…そうだ。リスティーナ。途中で誰かに声を掛けられたり、絡まれたりしたら、叫ぶなり、俺の名前を呼ぶんだぞ。いいな?」
そう何度も念押しされ、リスティーナは一旦、ルーファスと別れた。
ルーファス様ってなんだかエルザみたい。一人行動をする前はいつもああやってエルザが何度も私に言ってくれていたな。やっぱり、ルーファス様とエルザって似ている気がする。
優しい所とか、ああいう心配性な所とか…。
ああ。そうそう。お母様やニーナも過剰な位によく私を心配してくれていたっけ。
知らない人に声をかけられたら、すぐに逃げる。
町を歩く時は大通りを歩くこと。絶対に人気のない路地裏には行かないこと。
寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰る等々…。
まあ、あれだけ心配性になったのは、私が次々とトラブルに巻き込まれていたからなんだろうけど…。
リスティーナは過去の出来事を思い出し、苦笑した。
リスティーナは昔から、よくトラブルに巻き込まれていた。それはもう数え切れない程。
町を歩けば、ひったくりに遭ったり、言いがかりをつけられて金目の物を要求されそうになったり、路地裏に連れ込まされそうになったり等々…。挙げたらキリがない。
どうやら、自分はよくいうトラブルを引き寄せる体質らしい。
リスティーナは覚えてないが、幼い頃は誘拐されたこともあったし、立ち入り禁止区域の森に迷い込んで一週間も行方知らずになってしまったこともあったらしい。
母とニーナが必死でリスティーナを見つけ出し、助け出してくれたお蔭で奇跡的に助かったが、一歩間違えていれば死んでいたかもしれなかった。今、こうして生きていることが不思議な位だ。
ひったくりに遭った時も恐喝された時もエルザとアリアが相手の男をボコボコに返り討ちにしたのでリスティーナに被害はなく、無事だった。
でも、二人がいなかったら、どうなっていたことか…。考えるだけで恐ろしい。
私って、不幸体質なのでは…?と本気で悩んだりもした。
ここ最近はそんなトラブルに巻き込まれることなく、比較的安全に平穏に過ごせている。
どうか、このまま一生、何のトラブルにも巻き込まれませんようにと切に願う。
エルザがリスティーナを過剰な位に心配するのはそういった背景があるからだ。
人によっては、過保護すぎると言う人もいるけど、リスティーナはその気遣いが嬉しかった。
それだけ、自分の事を気にかけてくれて、心配してくれているということだから…。
そんな事を考えている内に文学作品や童話が並べられている本棚に辿り着いた。
リスティーナは一冊の童話に目を留めた。
『太陽の国の王子とオッドアイの少女』
この前ルーファス様に話したオッドアイの女の子が主人公の童話だ。
あ、『灰塗れの少女、エマ』の童話もある!
リスティーナは二冊の本を手に取った。
『灰塗れの少女、エマ』も実話を基にして作られた童話だ。
テーゼ国の王妃、エマがモデルだといわれている。
エマ妃といえば、テーゼ国では黄金の歌姫、フィリア妃の次に有名な人だった。
この童話もリスティーナが大好きなお話の一つだった。
元々、リスティーナはこの二冊の童話も持っていたのだが、母の死後、レノアと異母兄に持っていた本を燃やされたり、破かれたりした時にこの童話も焼かれてしまったのだ。
懐かしい…!リスティーナは思わず口元が綻んだ。
そのポーションのお蔭でリスティーナはすぐに回復することができた。
立って歩くことすらままならなかったのに、ポーションを飲んだらすぐに腰の痛みも消え、身体も軽くなった気がする。
凄い…!こんなにも効果があるポーションを作れてしまうだなんて…!
やっぱり、ルーファス様って凄いなあ。
これなら、町に行っても問題なさそう。
すっかり、本調子に戻ったリスティーナは予定通り、ルーファスと一緒に町に出かけることにした。
町に行くので服装も庶民が着るような服にする。
淡い水色の小花が散った白いワンピースに身を包み、髪は下ろして、一部だけ編み込みにしてもらった。
「リスティーナ様。とても素敵ですわ。」
「ありがとう。スザンヌ。」
こういう格好は久しぶり…。
メイネシア国にいた頃はよくエルザ達と城下町に行っていたけど、この国に来てからは町になんて行った事がない。リスティーナはワクワクした。
変な所はないかな?リスティーナは何度も鏡を見ては髪型や服装をチェックする。
ルーファス様と一緒に出かけるのだから、恥ずかしくないようにしたい。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「リスティーナ。支度はできたか?」
ルーファス様だ。リスティーナは扉を開けて、ルーファスを出迎えた。
「ルーファス様。すみません。お待たせしてしまって…、」
リスティーナは目の前に立っているルーファスの姿を見て、思わず目を瞠った。
ルーファスはシャツとズボンという庶民が着るような簡素な格好をしていた。
何より、一番目を引くのは、彼の髪と目の色だ。
黒髪が金髪に、オッドアイの目はエメラルドグリーンの色に変わっていた。
「ルーファス様…!髪と目の色が…。もしかして、それは、変身魔法ですか?」
「ああ。ルカに術式を教えてもらって、試しにやってみた。変か?」
「いいえ!ちっとも!ルーファス様の青と赤のオッドアイも綺麗ですけど、その髪と目の色もルーファス様によく似合っています。」
リスティーナはルーファスの髪と目の色を見て、ふと、思った。
金髪とエメラルドグリーンの目…。私と同じ色…。
リスティーナは何だか恥ずかしくなって、視線が泳いでしまう。
た、ただの偶然、かな?
そんな思いでチラッとルーファスを見上げると、彼と目が合った。
ルーファスはフッと口角を上げて笑うと、
「君と同じ色にしてみたんだ。」
「ッ!」
偶然じゃなかった。
ルーファス様はあえて、私と同じ色に…。
「あ、あの…、ルーファス様。」
「ん?」
「お願いがあるんです。わ、私にも変身魔法をかけてくれませんか?」
「ああ。勿論だ。一応はお忍びだから、髪と目の色は変えておいた方がいいだろう。色の希望はあるか?」
「黒い髪に…、青と赤い目がいいです…。」
「それは…、」
リスティーナの言葉にルーファスは少し動揺したように言葉に詰まった。
ルーファスは動揺したのを誤魔化すようにコホン、と咳払いすると
「わ、分かった。少し目を閉じててくれ。今、魔法をかけるから…。」
言われた通り、目を瞑る。
すると、フワッと温かい何かが身体を包み込んだ。
「よし。成功だ。もう、目を開けていいぞ。」
目を開けて、鏡で確認すれば、そこには黒髪に青と赤のオッドアイに変わった自分の姿が映っていた。
「わあ…!凄い!本当にオッドアイの目に変わってる…!」
リスティーナは思わず嬉しくて、はしゃいでしまう。
「ありがとうございます!ルーファス様!私、オッドアイに憧れていたので嬉しいです!」
「…そうか。」
リスティーナの言葉にルーファスは優しく目を細めた。
「そろそろ、行くか。」
ルーファスはリスティーナに手を差し出し、エスコートをしてくれた。
廊下を歩いている途中でルーファスはピタッと立ち止まると、
「言い忘れていたが…、その格好、君によく似合っているな。」
「!ありがとうございます…。る、ルーファス様も…、とても素敵です…。」
初めて見る彼の質素な服装は何だか新鮮ですごくドキドキする。
リスティーナはドキドキしながら、ルーファスと一緒に玄関ホールに向かった。
階段を降りて、玄関のホールまで行くと、既にそこにはルカ達が並んでいた。
ルカはリスティーナの髪と目の色を見て、口元を引き攣らせた。
「り、リスティーナ様…。その、髪と目の色…。」
「ルーファス様に変身魔法をかけてもらったの。」
リスティーナはえへへ、と嬉しそうに答えた。
「で、殿下…。リスティーナ様に自分の色を纏わせるなんて、さすがにやり過ぎでは?独占欲強い男は嫌われますよ!」
「何を誤解しているか知らないが、この色はリスティーナが希望したものだ。」
「え、そ、そうなんですか?」
リスティーナはコクコクと頷いた。
「しかし、殿下。オッドアイは流石に目立ちます。せめて、目の色は統一した方がいいかと…。」
「そうですわ。オッドアイは珍しいので人攫いに狙われやすいと聞きますし…。」
ロジャーとリリアナの意見にリスティーナはそうだったと思い直した。
ルーファス様と同じオッドアイになれるのは嬉しいけど、確かにこの姿で町に出るのはかなり目立ってしまう。それ位、オッドアイは珍しい。
残念だけど、色はどちらか一つにしないと…。
「じゃあ…、青にします。ルーファス様。右目の所を青色に変えてもらってもいいですか?」
迷った末にリスティーナは服装に合わせて、瞳の色は青を選んだ。
ルーファスにまた変身魔法をかけ直してもらう。
黒髪に青い目へと変化したリスティーナの姿にルカ達はおおっと感心したように声を上げた。
「す、すごい…!殿下、もう変身魔法を使えるようになったんですね!僕、この魔法習得するまでに三か月かかったのに…。」
魔法が得意なルカですら、変身魔法を習得するには時間がかかったんだ。
でも、ルーファス様は術式を教えてもらっただけですぐに習得してしまった。
凄い…。そういえば、ルーファス様は幼い頃から天才だ、神童だと呼ばれていたんだっけ。
剣術も強いのに、魔法も優れているなんて…。
リスティーナは感心した。剣術も魔法の才能もない自分とは大違いだ。
リスティーナは内心、落ち込んだ。
「リスティーナ?どうした?気分でも悪いのか?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「無理はするな。もし、疲れているのなら、別に今日でもなくても…、」
「いいえ!私、行きたいです!この国に来てから、まだ町に行ったことがないので昨日から凄く楽しみだったんです。」
「そうか?それなら、いいが…。」
ルーファスのエスコートでリスティーナは馬車に乗り込んだ。
本来なら、護衛をつけるのだが、折角なので二人っきりで町を楽しみたいというルーファスの希望により、今日は二人だけで出かける事にした。
リスティーナはスザンヌ達にお土産を買っていく事を約束し、出発した。
馬車で移動中、リスティーナはルーファスと会話を楽しんだ。
「それで、その後、アリアは形勢逆転して、対戦相手に勝ったんです。その時のアリアがすっごくかっこよくて…、」
エルザ達と町に行ったことがあると話したのをきっかけにリスティーナはルーファスにアリアとエルザとの思い出話を語った。
「へえ。かっこいい、か…。」
ルーファスがぼそり、と低い声で呟く。
ルーファス様。アリアに興味を持ってくれたのかな?もし、そうだとしたら、嬉しい。
「ルーファス様にもアリアを会わせてあげたいです。アリアはすっごく強い騎士なんですよ。それに、アリアは古代剣術の使い手なんです。」
「古代剣術だと?流派は何だ?」
「水の流派と呼ばれている蒼穹水蓮です。」
「蒼穹水蓮…。水を操る剣術か。ん?古代剣術を継承しているという事は…、まさかアリアは四騎士の称号持ちか?」
「あ…!そうでした。私、その事をルーファス様に伝えてなかったですね。そうなんです。アリアは四騎士の一人なんです。」
四騎士とは、メイネシア国の騎士団の中で最高位の騎士に授けられる称号だ。
四騎士に選ばれる者は古代剣術を習得するのが条件だった。
騎士団の中でもたった四人しか選ばれない中でアリアは四騎士の座を勝ち取った。
しかも、アリアは四騎士の中で唯一の女騎士でもある。
「アリアの婚約者のヒューバート様も四騎士の一人なんですよ。」
「ということは、そのヒューバートという男も古代剣術を使えるのか?」
「はい。ヒューバート様は雷王閃光の使い手なんです。」
「雷の流派か。それは、珍しいな。」
ルーファスは古代剣術に興味があるらしく、リスティーナの話を熱心に聞いてくれた。
アリアとヒューバート様はどうしているかな。
ヒューバート様がアリアを大好きでとても大切にしてくれているということは分かっているんだけど…、ヒューバート様は愛情表現が重すぎる所があるから、少し心配だ。
いつもヒューバート様と別れた後のアリアはぐったりとした様子で「やっと帰ってくれた…。」と呟いていたっけ…。
そんな事を思い出しながら、リスティーナはルーファスと会話を楽しんだ。
町に着くと、そこは活気で溢れていた。
お菓子屋、雑貨屋、本屋、花屋…。たくさんの店がある。
思わず、キョロキョロと辺りを見回してしまう。
その時、前方から歩いてきた人にぶつかりそうになってしまう。
すると、リスティーナの肩をルーファスが引き寄せた。
「あ、ありがとうございます。」
ルーファスは気にするなと言って、そっとリスティーナの手を握り、
「はぐれるといけないから、こうして、手は繋いでおこう。」
そのまま手を繋いで町を歩いていく。
ルーファスの手の感触にリスティーナはドキドキした。
握った手を意識していると、心臓が破裂しそうだったので店に集中することにした。
しばらく、二人で手を繋いで町を歩いていたが、ルーファスが本屋の前で立ち止まった。
「すまない。リスティーナ。少し、本屋に寄ってもいいか?」
「勿論です。」
本屋は意外と広く、たくさんの書物が本棚に納められていた。
「ルーファス様。私は、あっちの本棚にいますね。」
「ああ。…そうだ。リスティーナ。途中で誰かに声を掛けられたり、絡まれたりしたら、叫ぶなり、俺の名前を呼ぶんだぞ。いいな?」
そう何度も念押しされ、リスティーナは一旦、ルーファスと別れた。
ルーファス様ってなんだかエルザみたい。一人行動をする前はいつもああやってエルザが何度も私に言ってくれていたな。やっぱり、ルーファス様とエルザって似ている気がする。
優しい所とか、ああいう心配性な所とか…。
ああ。そうそう。お母様やニーナも過剰な位によく私を心配してくれていたっけ。
知らない人に声をかけられたら、すぐに逃げる。
町を歩く時は大通りを歩くこと。絶対に人気のない路地裏には行かないこと。
寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰る等々…。
まあ、あれだけ心配性になったのは、私が次々とトラブルに巻き込まれていたからなんだろうけど…。
リスティーナは過去の出来事を思い出し、苦笑した。
リスティーナは昔から、よくトラブルに巻き込まれていた。それはもう数え切れない程。
町を歩けば、ひったくりに遭ったり、言いがかりをつけられて金目の物を要求されそうになったり、路地裏に連れ込まされそうになったり等々…。挙げたらキリがない。
どうやら、自分はよくいうトラブルを引き寄せる体質らしい。
リスティーナは覚えてないが、幼い頃は誘拐されたこともあったし、立ち入り禁止区域の森に迷い込んで一週間も行方知らずになってしまったこともあったらしい。
母とニーナが必死でリスティーナを見つけ出し、助け出してくれたお蔭で奇跡的に助かったが、一歩間違えていれば死んでいたかもしれなかった。今、こうして生きていることが不思議な位だ。
ひったくりに遭った時も恐喝された時もエルザとアリアが相手の男をボコボコに返り討ちにしたのでリスティーナに被害はなく、無事だった。
でも、二人がいなかったら、どうなっていたことか…。考えるだけで恐ろしい。
私って、不幸体質なのでは…?と本気で悩んだりもした。
ここ最近はそんなトラブルに巻き込まれることなく、比較的安全に平穏に過ごせている。
どうか、このまま一生、何のトラブルにも巻き込まれませんようにと切に願う。
エルザがリスティーナを過剰な位に心配するのはそういった背景があるからだ。
人によっては、過保護すぎると言う人もいるけど、リスティーナはその気遣いが嬉しかった。
それだけ、自分の事を気にかけてくれて、心配してくれているということだから…。
そんな事を考えている内に文学作品や童話が並べられている本棚に辿り着いた。
リスティーナは一冊の童話に目を留めた。
『太陽の国の王子とオッドアイの少女』
この前ルーファス様に話したオッドアイの女の子が主人公の童話だ。
あ、『灰塗れの少女、エマ』の童話もある!
リスティーナは二冊の本を手に取った。
『灰塗れの少女、エマ』も実話を基にして作られた童話だ。
テーゼ国の王妃、エマがモデルだといわれている。
エマ妃といえば、テーゼ国では黄金の歌姫、フィリア妃の次に有名な人だった。
この童話もリスティーナが大好きなお話の一つだった。
元々、リスティーナはこの二冊の童話も持っていたのだが、母の死後、レノアと異母兄に持っていた本を燃やされたり、破かれたりした時にこの童話も焼かれてしまったのだ。
懐かしい…!リスティーナは思わず口元が綻んだ。
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