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第二章 相思相愛編

告白

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窓から射し込む日の光を浴びて、ルーファスはフッと目を開けた。
ルーファスは天井を見つめた。
俺は…、生きているのか?
ふと、横を見れば、リスティーナが寝台のすぐ横の椅子に座り、居眠りをしていた。
ずっとここで看病してくれたのだろうか?ルーファスは起き上がった。

あの時、ルーファスは死を覚悟した。次に自分が毒を飲めば死ぬことは分かっていた。
それでも、ルーファスはあえて自分の身体に毒を取り込んだ。あのまま、リスティーナを死なせたくはなかった。彼女を助ける為なら、命など惜しくなかった。
元々、ルーファスはいつ死んでもいいと思っていた。だけど、リスティーナが自分に生きて欲しいと願ってくれたから生きたいと思ったのだ。彼女がいるから、生きる希望を持つことができた。
だが、リスティーナがいなくなるというのなら…、この世界で生きていることに何の意味もない。
自分の命と引き換えにリスティーナを救えるなら本望だった。
好きな女の為に死ねるのだ。後悔はなかった。そう思っていたのに…。
ルーファスは改めてリスティーナを見つめた。ふと、寝台の傍に置かれた器に入った水が微かに光っている。中を覗き込めば、そこには黄金の花が浮かんでいた。

「これは…、」

病気や怪我を癒すといわれる魔法の花…。まさか、リスティーナがこれを…?
ルーファスはリスティーナをまじまじと見つめた。

「君という人は…、どこまで…、」

ルーファスの呟きにリスティーナはフッと目を覚ました。

「ん…?あれ?私、寝て…?」

不意に気配がしたので視線を上げた。見れば、ルーファスが目を覚ましていて、こちらを見つめていた。

「ルーファス様!目が覚めたのですね!」

「ああ。ついさっきな。」

リスティーナは嬉しくて、満面の笑みを浮かべ、ルーファスに駆け寄った。

「身体の調子は如何でしょうか?どこか痛い所はありませんか?あ、そうだ。喉は渇いていませんか?今、お水を…、」

そう言って、リスティーナは水を持ってこようとその場を離れようとした。
すると、急にルーファスはリスティーナの手首を掴み、グイッと強く腕を引いた。

「あっ…!?」

腕を引かれたリスティーナはそのままルーファスに抱き締められた。

「ルーファス様…?」

ルーファスはギュッとリスティーナを強く抱き締めた。

「また、君に助けられた。」

「え?」

ルーファスはリスティーナを抱き締めながら、耳元でそう囁いた。

「あの花…。君が採ってきてくれたんだろう?」

「わ、私だけじゃありませんよ。ルカも一緒に行ってくれたお蔭で無事に帰って来ることができて…、」

「それでも、君が俺を助けてくれたことに変わりはない。…ありがとう。リスティーナ。この恩は絶対に忘れない。いつか、必ず…、この恩は君に返すと約束する。」

「そ、そんな…!恩だなんて…。それを言うのなら、私の方こそルーファス様に恩があります。毒で死にそうだった私をルーファス様が救ってくれました。だから、私もルーファス様を助けたかった。それだけなんです。」

リスティーナはルーファスに向き直り、真っ直ぐに彼の目を見つめて言った。
目の前にルーファス様がいる。息をして、話ができている。リスティーナは改めて彼が無事に助かったことを実感した。

「無事で良かった…。ルーファス様…。」

「リスティーナ…。」

ルーファスはリスティーナを抱き締めていた手を離すと、そっとリスティーナの手を取った。
リスティーナの手は崖を登った時に少し切ってしまっていて、怪我をしていた。
ルーファスはリスティーナの傷口にチュッと唇を落とした。

「る、ルーファス様…。」

動揺するリスティーナにルーファスは黄金の水を掬うと、怪我をした手に落としていく。
すると、みるみるうちに傷口が塞がっていく。

「わ…。あ、ありがとうございます。」

すごい…。あっという間に傷が消えていっている。

「もう痛くないか?」

「はい。もう痛くないです。」

「そうか。それは、良かった。」

ルーファスはそのままリスティーナの手を自分の頬に当てた。

「る、ルーファス様…?」

「温かいな…。」

そう言って、微笑むルーファスにリスティーナはドキドキした。

「こうして、君に触れていると…、生きているのだと実感する。不思議なものだな。あの時、俺は死んでもいいとすら思っていたのにこうして生きていることにホッとしている。」

「ルーファス様は…、死にたいと思っていたのですか?」

リスティーナは悲しそうに瞳を揺らした。彼に生きて欲しいと願うのは私の我儘だろうか?

「そうじゃない。君の為に死ねるのなら、悪くないと思っていた。だが…、心のどこかで死にたくないという気持ちもあった。本当は俺も…、生きたいと思っていたんだ。」

「どうして…?どうして、そこまでして…、」

どうしてそこまでして私を助けてくれたのか。そんな思いでルーファスを見つめるリスティーナにルーファスは、

「言っただろう。君は俺の全てだと。」

ルーファスはそう言って、リスティーナの頬を優しく撫でた。
その言葉と優しい手にリスティーナはドキッとした。そうだ…。確かに昨日、ルーファス様は私にそう言った。でも、それだとまるで…、リスティーナはギュッと手を握り締めた。

「そんな事…、言わないで下さい。そんな言い方をされたら、私…、勘違いをしてしまいます。」

「勘違い?」

「る、ルーファス様が…、私の事を好きなのではないかと勘違いしてしまいます…。」

一瞬だけ、ルーファス様が私の事を好きなのではないかと考えてしまった。
彼も私と同じ気持ちなのではないかと…。そんな自分が恥ずかしい。いつから、私はこんな思い上がった考えをするようになったのだろうか。私を好きになる男性なんている訳がないのに…。

『お前みたいな下賤な女が本気で相手にされていると思ったの?』

レノア王女の蔑んだ目と嘲笑う声が甦る。
いつだって私は誰かの一番にはなれない。揶揄われたり、戯れの相手に選ばれることはあっても本気で私を好きになってくれる男性は誰もいなかった。替えのきく女。道具のような存在。それが私だ。
そんな私が…、誰かに愛されるわけないのに…。リスティーナはルーファスの目を見るのが怖くて、俯いた。

「勘違いじゃない。」

きっぱりと断言するルーファスにリスティーナはえ…?と顔を上げた。そこには、いつになく真剣な表情を浮かべたルーファスがいた。

「リスティーナ。俺は…、君の事が好きだ。誰よりも君を愛している。」

「ッ…!」

彼は今…、何て言った?私の事が…、好き?
リスティーナは信じられない気持ちで一杯になった。
でも…、リスティーナは知っている。彼が嘘を吐くような人ではないことを。

「言葉では言い尽くせない位に…、君の事を愛している。」

サラッと髪を梳く感触がする。ルーファスはリスティーナの髪に触れて、熱の籠った目でこちらを見つめる。

「ルーファス様!」

リスティーナは喜びのあまり、思わずルーファスに抱き着いた。

「わ、私も…!私もルーファス様が好きです!心から、お慕いしています。」

「!そ、それは本当か?」

ルーファスは恐る恐るといったようにリスティーナに聞き返した。ルーファスの手がリスティーナの肩に触れ、目を合わせられる。

「俺を好き…?君が…?」

「はい…。」

リスティーナはそっと顔を上げて、ルーファスに自分の気持ちを伝えた。

「っ、リスティーナ…!」

「んッ…!」

突然、頭を引き寄せられ、そのまま唇を奪われる。吐息すらも奪われそうな激しい口づけだった。

「リスティーナ…!」

「ん…、はっ!っ…、ルーファス様…!」

チュッ、チュッと音を立てながら、何度も唇を奪われる。
リスティーナも必死に彼の口づけに応えた。
信じられない…。ルーファス様も私と同じ気持ちだったなんて…。

「誰かをこんなにも愛おしいと思ったのは君が初めてだ…。まさか、俺が誰かを愛する日が来るとは思わなかった。俺を好きになる女が現れるとも思わなかった。」

ルーファスはそう言って、リスティーナを抱き締めてくれる。

「ルーファス様…。」

その言葉に彼がどれだけ今まで傷つき、苦しんだのかが窺える。

「きっと、俺が今まで生きていたのは…、君に出会う為だったのだと思う。今、俺は…、この世に生まれて良かったと神にすら感謝をしている。」

「ルーファス様…!私、私も…!ルーファス様に出会えて幸せです…。」

リスティーナは嬉しくて、思わず泣いてしまった。そんなリスティーナをルーファスは優しく指で涙を拭ってくれた。そして、リスティーナをもう一度抱き締めてくれた。
本当に夢みたい…。お互いの気持ちを通じ合う事がこんなにも満たされるものであるだなんて…、知らなかった…。ルーファスと想いを通じたリスティーナは今、この瞬間の幸せを噛み締めた。
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