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第二章 相思相愛編
ルーファスの力
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ルーファスは足で扉を蹴破り、部屋に駆け込んだ。その腕の中にはぐったりとしたリスティーナがいた。
「姫様!」
スザンヌがリスティーナに駆け寄った。血を吐いたせいで肌が青白く、息も絶え絶えなリスティーナを見て、スザンヌは口元を手で覆った。
「ひ、姫様…?」
「説明は後だ!医者を呼べ!」
ルーファスの命令にスザンヌは弾かれたように部屋を飛び出した。
ルーファスはリスティーナを寝台に寝かせた。
「殿下!一体、何があったのです!?」
ロジャー達が騒ぎを聞きつけて部屋に駆け込んだ。
「王妃に毒を盛られた。」
「ど、毒!?な、何でそんな事…!」
ルカは驚きのあまり、目を剥いた。ロジャーはルーファスの言葉に何かを察知したような表情を浮かべる。
「爺。催吐薬を!」
「ハッ、こちらに。」
ロジャーはすぐに薬をルーファスに差し出した。リリアナが急いでバケツとタオル、水を持ってきた。
「催吐薬…?何でそんな物を?」
「身体に残った毒を吐き出す為よ。毒が残ったままだと、後遺症が残る危険があるから。だから、嘔吐作用のある薬を飲ませて、胃の中の物を空っぽにするの。」
「え、そ、そうなんですか?」
「そうよ!あなたも殿下の従者ならもっと毒の対処方法について勉強なさい!」
「二人共!無駄話は後にして、今はリスティーナ様の治療に専念なさい!」
『は、はい!』
ルカとリリアナはロジャーの言葉に慌てて頷いた。その間にルーファスはリスティーナに口移しで薬を飲ませた。
即効性のある催吐薬はすぐに効果が現れた。
「ウッ…!」
リスティーナは吐き気を催し、口元を抑えた。差し出されたバケツに胃の内容物を吐き出す。
「ッ…、うっ、おえっ…!っ、…!」
ルーファスは嘔吐でえずくリスティーナの背中を撫でると、水を差し出した。
「大丈夫か?一度、口の中をゆすいだ方がいい。」
リスティーナは意識が朦朧としながらも、水を口にする。その直後にまたしても強い嘔気がリスティーナを襲った。が、リスティーナは口元を押さえて、吐くのを堪えた。
「リスティーナ!吐くのを我慢するな。」
ルーファスにそう言われても、リスティーナはフルフルと首を横に振り、ポロポロと涙を零した。
「姫様!どこか痛いのですか!?」
スザンヌがリスティーナに声を掛ける。が、リスティーナは首を横に振った。
「…で。」
「どうした?」
「見ないで…。見ないで、下さい…。こんな汚い…。」
リスティーナは泣きながら、ルーファスから顔を背けた。
「何を…、」
リスティーナの言葉の意味が分からず、ルーファスは怪訝な顔をした。
が、ロジャーはハッとしたように目を見開き、
「殿下。ここは、私共にお任せください。」
「何を言っている。まだ毒を完全に吐き出していないというのに…。」
「ご安心を。私がしっかりとリスティーナ様の治療を致しますので!」
「姫様の事は私にお任せを!」
「っ、おい!」
ロジャーとリリアナ、スザンヌにグイグイと腕を引っ張られ、背を押され、ルーファスは反ば強引に部屋を追い出された。
「姫様。さあ、殿下はもういませんので遠慮なく…、」
スザンヌにそう促され、リスティーナはバケツの中に吐瀉物を吐き出した。
「うっ…、ふっ…、」
リスティーナは泣きながら、吐き続けた。見られた。見られてしまった。ルーファス様に私が吐いている姿を…。
好きな人に吐いている場面を見られたことがショックでリスティーナは泣き続けた。
一方のルーファスは何故、部屋を追い出されたのか理解できないまま部屋の前に突っ立っていた。
彼からすれば、あれは治療であったのでリスティーナが吐いている姿を見ても気にも留めていなかった。それよりも、早く毒を全部吐き出さないといけないという気持ちの方が強かった。リスティーナが胃の中の物を全て吐き終えた頃、漸くルーファスは部屋に入ることができた。
「どうだ?」
リスティーナの容態を診察する医者にルーファスが急かすように医師に確認する。
「今はまだ何とも…。この毒は少々、厄介な代物でして…。即効性の強い毒ではありますが持続性のある毒でもあります。恐らく、今夜を乗り切らなければ…、」
「うっ…!い、痛い…!」
医師がそう説明している間にもリスティーナはズキズキと痛む胸を押さえ、苦悶の声を上げた。
身体の中が燃えているみたいに痛い。苦しい…!リスティーナはハッ、ハッ、と苦しそうに喘いだ。
「リスティーナ…。」
ルーファスがリスティーナの手を握り締めた。リスティーナはあまりの痛さに涙が止まらない。
「ル、ファス、様…。」
ああ。視界がぼやける。私…、このまま死んじゃうのかな?リスティーナはあまりの苦しさにそう思った。リスティーナは震える唇を動かして、最後にこれだけは伝えたいと口を開いた。
「ルー、ファス、様…。私…、あなたに、伝えたい、ことが…、」
「リスティーナ。今は喋るな。…君が元気になったら聞かせてくれ。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの目を手で覆った。
フッと意識が遠のく。
駄目…。それじゃあ、駄目。もしかしたら、私、このまま死んでしまうかもしれない。
せめて死ぬ前に自分の気持ちを伝えておきたい。
私はあなたのことが好きなのだと…。
そう思っているのにリスティーナは突然、襲った眠気に打ち勝てずにそのまま目を閉じて、眠り込んでしまった。
スー、と寝息を立てるリスティーナを見て、ルーファスはグッと拳を握り締めた。
強制的に眠らせることでしか彼女の苦しみを紛らわせることしかできない自分の無力さに腹が立った。
ふと、ルーファスは自分の掌を見つめた。爪が食い込んで血が滲んでいる。
この力を使えばもしかしたら…、
「爺。正直に答えろ。リスティーナは助かると思うか?」
「…厳しいかと思います。」
ロジャーはリスティーナを見て、沈痛な面持ちでそう言った。
「リスティーナ様に盛られた毒は強力な毒です。助かる見込みは…、限りなく低いかと。
毒に耐性がある方ならともかく、リスティーナ様は毒に耐性がありません。このままだと…、」
「そんな…!姫様が死ぬというのですか!?」
スザンヌはショックを受けたように叫んだ。
「どうして、姫様が死ななくてはならないのです!?姫様が何をしたっていうんですか!」
悲痛なスザンヌの叫びにロジャー達は何も答えられなかった。
「リスティーナは死なない。」
泣き叫ぶスザンヌにルーファスがそう小さく呟いた。
「!?な、何を言って…?」
「死なせはしない。絶対に…。俺がどんな手を使ってでも彼女を助ける。」
「殿下…?」
ロジャーが訝し気にルーファスを見つめた。ルーファスはリスティーナの手をそっと握ると、指に口づけた。
その愛おしい者を見るかのような彼の表情にスザンヌは目を瞠った。
「リスティーナ…。今、楽にしてやる。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの額に手を翳した。
瞬間、ブワッと風圧のようなものがルーファスを中心に巻き起こり、スザンヌ達は吹き飛ばされそうになった。
「な、何…!?この、風…!」
「!まさか…、力を使う気ですか!?駄目です!これ以上、力を使っては…!そんな事すれば、あなたの命も…!」
何かに気付いたロジャーが必死に止めるが、ルーファスは耳を貸さなかった。
リスティーナの額に翳した手が震え始め、額に汗が滲んだ。
クッ、と声を上げて、もう片方の手でその手を押さえつける。
すると、段々とリスティーナの顔色に生気が戻ってきた。
風がおさまった頃には、リスティーナの顔色は元に戻り、青白い顔は薔薇色の頬に変わり、安らかな寝息を立てていた。明らかに容態がよくなった様子のリスティーナにスザンヌは唖然とした。
「姫様…?」
その時、ドサッとルーファスが床に倒れ込んだ。
「殿下!」
ルーファスは片手を押さえ、歯を食い縛り、苦しそうな表情を浮かべていた。
「殿下…?」
スザンヌは様子がおかしい彼に思わず目を向けた。リスティーナに翳した手の黒い紋様がどす黒くなり、黒い渦のようなものが蠢いていた。その時、ルーファスは強く咳き込んだ。そのまま、ゴホッと血を吐いてしまう。
「殿下!」
ロジャーはルーファスに駆け寄った。
「姫様!」
スザンヌがリスティーナに駆け寄った。血を吐いたせいで肌が青白く、息も絶え絶えなリスティーナを見て、スザンヌは口元を手で覆った。
「ひ、姫様…?」
「説明は後だ!医者を呼べ!」
ルーファスの命令にスザンヌは弾かれたように部屋を飛び出した。
ルーファスはリスティーナを寝台に寝かせた。
「殿下!一体、何があったのです!?」
ロジャー達が騒ぎを聞きつけて部屋に駆け込んだ。
「王妃に毒を盛られた。」
「ど、毒!?な、何でそんな事…!」
ルカは驚きのあまり、目を剥いた。ロジャーはルーファスの言葉に何かを察知したような表情を浮かべる。
「爺。催吐薬を!」
「ハッ、こちらに。」
ロジャーはすぐに薬をルーファスに差し出した。リリアナが急いでバケツとタオル、水を持ってきた。
「催吐薬…?何でそんな物を?」
「身体に残った毒を吐き出す為よ。毒が残ったままだと、後遺症が残る危険があるから。だから、嘔吐作用のある薬を飲ませて、胃の中の物を空っぽにするの。」
「え、そ、そうなんですか?」
「そうよ!あなたも殿下の従者ならもっと毒の対処方法について勉強なさい!」
「二人共!無駄話は後にして、今はリスティーナ様の治療に専念なさい!」
『は、はい!』
ルカとリリアナはロジャーの言葉に慌てて頷いた。その間にルーファスはリスティーナに口移しで薬を飲ませた。
即効性のある催吐薬はすぐに効果が現れた。
「ウッ…!」
リスティーナは吐き気を催し、口元を抑えた。差し出されたバケツに胃の内容物を吐き出す。
「ッ…、うっ、おえっ…!っ、…!」
ルーファスは嘔吐でえずくリスティーナの背中を撫でると、水を差し出した。
「大丈夫か?一度、口の中をゆすいだ方がいい。」
リスティーナは意識が朦朧としながらも、水を口にする。その直後にまたしても強い嘔気がリスティーナを襲った。が、リスティーナは口元を押さえて、吐くのを堪えた。
「リスティーナ!吐くのを我慢するな。」
ルーファスにそう言われても、リスティーナはフルフルと首を横に振り、ポロポロと涙を零した。
「姫様!どこか痛いのですか!?」
スザンヌがリスティーナに声を掛ける。が、リスティーナは首を横に振った。
「…で。」
「どうした?」
「見ないで…。見ないで、下さい…。こんな汚い…。」
リスティーナは泣きながら、ルーファスから顔を背けた。
「何を…、」
リスティーナの言葉の意味が分からず、ルーファスは怪訝な顔をした。
が、ロジャーはハッとしたように目を見開き、
「殿下。ここは、私共にお任せください。」
「何を言っている。まだ毒を完全に吐き出していないというのに…。」
「ご安心を。私がしっかりとリスティーナ様の治療を致しますので!」
「姫様の事は私にお任せを!」
「っ、おい!」
ロジャーとリリアナ、スザンヌにグイグイと腕を引っ張られ、背を押され、ルーファスは反ば強引に部屋を追い出された。
「姫様。さあ、殿下はもういませんので遠慮なく…、」
スザンヌにそう促され、リスティーナはバケツの中に吐瀉物を吐き出した。
「うっ…、ふっ…、」
リスティーナは泣きながら、吐き続けた。見られた。見られてしまった。ルーファス様に私が吐いている姿を…。
好きな人に吐いている場面を見られたことがショックでリスティーナは泣き続けた。
一方のルーファスは何故、部屋を追い出されたのか理解できないまま部屋の前に突っ立っていた。
彼からすれば、あれは治療であったのでリスティーナが吐いている姿を見ても気にも留めていなかった。それよりも、早く毒を全部吐き出さないといけないという気持ちの方が強かった。リスティーナが胃の中の物を全て吐き終えた頃、漸くルーファスは部屋に入ることができた。
「どうだ?」
リスティーナの容態を診察する医者にルーファスが急かすように医師に確認する。
「今はまだ何とも…。この毒は少々、厄介な代物でして…。即効性の強い毒ではありますが持続性のある毒でもあります。恐らく、今夜を乗り切らなければ…、」
「うっ…!い、痛い…!」
医師がそう説明している間にもリスティーナはズキズキと痛む胸を押さえ、苦悶の声を上げた。
身体の中が燃えているみたいに痛い。苦しい…!リスティーナはハッ、ハッ、と苦しそうに喘いだ。
「リスティーナ…。」
ルーファスがリスティーナの手を握り締めた。リスティーナはあまりの痛さに涙が止まらない。
「ル、ファス、様…。」
ああ。視界がぼやける。私…、このまま死んじゃうのかな?リスティーナはあまりの苦しさにそう思った。リスティーナは震える唇を動かして、最後にこれだけは伝えたいと口を開いた。
「ルー、ファス、様…。私…、あなたに、伝えたい、ことが…、」
「リスティーナ。今は喋るな。…君が元気になったら聞かせてくれ。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの目を手で覆った。
フッと意識が遠のく。
駄目…。それじゃあ、駄目。もしかしたら、私、このまま死んでしまうかもしれない。
せめて死ぬ前に自分の気持ちを伝えておきたい。
私はあなたのことが好きなのだと…。
そう思っているのにリスティーナは突然、襲った眠気に打ち勝てずにそのまま目を閉じて、眠り込んでしまった。
スー、と寝息を立てるリスティーナを見て、ルーファスはグッと拳を握り締めた。
強制的に眠らせることでしか彼女の苦しみを紛らわせることしかできない自分の無力さに腹が立った。
ふと、ルーファスは自分の掌を見つめた。爪が食い込んで血が滲んでいる。
この力を使えばもしかしたら…、
「爺。正直に答えろ。リスティーナは助かると思うか?」
「…厳しいかと思います。」
ロジャーはリスティーナを見て、沈痛な面持ちでそう言った。
「リスティーナ様に盛られた毒は強力な毒です。助かる見込みは…、限りなく低いかと。
毒に耐性がある方ならともかく、リスティーナ様は毒に耐性がありません。このままだと…、」
「そんな…!姫様が死ぬというのですか!?」
スザンヌはショックを受けたように叫んだ。
「どうして、姫様が死ななくてはならないのです!?姫様が何をしたっていうんですか!」
悲痛なスザンヌの叫びにロジャー達は何も答えられなかった。
「リスティーナは死なない。」
泣き叫ぶスザンヌにルーファスがそう小さく呟いた。
「!?な、何を言って…?」
「死なせはしない。絶対に…。俺がどんな手を使ってでも彼女を助ける。」
「殿下…?」
ロジャーが訝し気にルーファスを見つめた。ルーファスはリスティーナの手をそっと握ると、指に口づけた。
その愛おしい者を見るかのような彼の表情にスザンヌは目を瞠った。
「リスティーナ…。今、楽にしてやる。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの額に手を翳した。
瞬間、ブワッと風圧のようなものがルーファスを中心に巻き起こり、スザンヌ達は吹き飛ばされそうになった。
「な、何…!?この、風…!」
「!まさか…、力を使う気ですか!?駄目です!これ以上、力を使っては…!そんな事すれば、あなたの命も…!」
何かに気付いたロジャーが必死に止めるが、ルーファスは耳を貸さなかった。
リスティーナの額に翳した手が震え始め、額に汗が滲んだ。
クッ、と声を上げて、もう片方の手でその手を押さえつける。
すると、段々とリスティーナの顔色に生気が戻ってきた。
風がおさまった頃には、リスティーナの顔色は元に戻り、青白い顔は薔薇色の頬に変わり、安らかな寝息を立てていた。明らかに容態がよくなった様子のリスティーナにスザンヌは唖然とした。
「姫様…?」
その時、ドサッとルーファスが床に倒れ込んだ。
「殿下!」
ルーファスは片手を押さえ、歯を食い縛り、苦しそうな表情を浮かべていた。
「殿下…?」
スザンヌは様子がおかしい彼に思わず目を向けた。リスティーナに翳した手の黒い紋様がどす黒くなり、黒い渦のようなものが蠢いていた。その時、ルーファスは強く咳き込んだ。そのまま、ゴホッと血を吐いてしまう。
「殿下!」
ロジャーはルーファスに駆け寄った。
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